カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」6月22日号

被災者の声と守護霊の声を同企画で並べる「婦人公論」の恐るべきセンス

2011/06/12 17:00
「婦人公論」6月22日号(中央公論
新社)

 大地震以降、表紙に「日本に希望を 女性の力を信じて!」というスローガンを掲げている「婦人公論」。しかし、これまで日本に希望をもたらすような特集があったかというと、正直なところそうでもないように思います。全体としては震災前と変わらず、”我欲いっぱい、夫は踏み台””ドロドロぶっちゃけ”路線なのに、取って付けたように震災関連の連載をしたり、タレントに「できることから」なんて語らせたりしてもねぇ~。小手先感が漂うんですよ。人間の性格も雑誌の性格も、そう簡単には変えられませんから仕方ないですね。でも、たまには、我が身の欲望を抑えた「婦人公論」を見てみたい。今回の特集は「主婦が引き出す、家族のちから」なので、ちょっと期待できそうです。

<トピック>
◎特集 どこで差がつく? 主婦が引き出す、家族のちから
◎緊急企画第5弾 地震大国日本に生きる
◎氷川きよし ふるさとの大切さを今こそ歌で伝えたい

■やっぱり結婚は人生の墓場?

 特集「主婦が引き出す、家族のちから」は、最初のページのタイトル下に書かれた導入文がすべてを物語っていました。

「不測の事態に直面したとき、頼りになるのはやっぱり『家族』。では、わが家は今、どれだけの結束力を備えているでしょうか。日常的な家事負担を減らすアイディアから、いざというときの心構えまで、どうすれば家族が主婦の味方になるのかを考えます」

 そう、主婦が「家族の味方」になるんじゃなくて、家族が「主婦の味方」になる方法を考える企画なのです(笑)。主役はあくまでア・タ・シ。ブレてねぇ~。タイトルを「主婦を引き立てる、ダメ夫のちから」に変えた方がしっくりきます、これは。

■あなたはおにぎりを分け合えますか

 震災について、これまでいろんな人のいろんな文章を目にしました。学者、タレント、ジャーナリスト、ブロガー、被災者……。しかし、さすがに守護霊さんの意見は聞いたことがありませんでした。今号の「婦人公論」には、スピリチュアルカウンセラーの江原啓之の語り下ろし文が掲載されています。江原は次のように語ります。

「たましいの視点で見れば、起きていることはみな、今を生きる全員の課題なのです」
「未曾有の大震災に際し、動揺するのもわかります。けれど私の守護霊はこう言っています。『涙で曇った目で物事を見てはいけない』と。つまりこれは、感情ではなく理性で物事を見て行動すべきであるということを意味します」

 この期に及んでも、意見の根拠は「たましい」や「守護霊」でした。オカルト専門誌ならともかく一般女性誌で、多くの人が大切な人や家を奪われ、まだ避難をしている現在進行形の大災害について、「守護霊」という言葉が出てくるとは思いも寄らなかったのでビックリです。この震災に当たっては、ちゃかすことが本分のお笑いタレントでも、キャラを捨てて生身の人間としてコメントを寄せている人が多いというのに、この人は「スピリチュアルカウンセラー」というキャラをどこまでも捨てない。ひたすら天上から傷ついた人々を諭すような言葉を並べ立てる。人間・江原がまったく見えず、心に響くものは何もありませんでした。

「人々の心を癒やすためには、人生は長さではなく、たとえ短くともいかに心を込めて生きたかが大事という真理を理解することが欠かせません。そして、『肉体は死んでもたましいは永遠』と知ることで、心が安らぐでしょう。(中略)亡くなった方とは必ずあの世で再会できます。その時に恥ずかしくない生き方を心掛けたいものです」
「1個しかないおにぎりを自分一人で食べればお腹は満たされますが、心は満たされません。逆に誰かと分け合えば、お腹は満たされませんが心は満たされます」

 百歩譲って言いますと、こういった言葉は復興が進んだ後、住む所や仕事などが確保され、生活の安全・安定が守られたときに有効なのかもしれません。まだ江原が出てくるには早すぎる、そんな印象を受けました。だいたい、1個のおにぎりを分け合えって、比喩なのかなんなのか分かりませんが、「自分の体形を見てから言え」と言いたいですね! と、憤慨しながらページを繰ると、次のページにはジャーナリスト粟野仁雄による福島県南相馬市・飯舘村のレポート「政府・東電・マスコミが見捨てた町の叫びを聞け」が掲載されていました。取材された原町青年会議所の男性の言葉。

「大手飲料メーカーは、自販機に製品を補充しない。テレビ局は地元の人が撮った映像を使うだけで、取材にも来ません。東京に本社がある大企業がさっさと手を引くから、多くの地元企業がつぶれていく。逃げた大企業には責任感や倫理観がない。南相馬市は子どものいない町になり、避難で二重生活を強いられている。東電と国がすべて面倒をみるべきだ」

 今、聞きたいのは守護霊ではなくて被災者の声なんです。このレポートと江原の語り下ろしを、同じ震災企画としてひとまとめにするセンスには、がっかりしました。でもって、その数ページ後に、江原による婦人公論別冊「理想の最期」の自社広告を掲載するというデリカシーのなさ。コピーは「この1冊があれば、あなたもあなたの愛する家族も、最良の最期を迎えられます!」だって。あきれますね。

 ……以上は、筆者の個人的な意見です。一時期、ネットなどでなんでもかんでも「不謹慎だ」と指摘することがはやりましたが、江原を「不謹慎」とは言いません。江原の言葉に癒やされる人もいることを否定するつもりもありません。いろんな意見があっていいと思います。結論として言いたいのは、「婦人公論」がわざわざ「日本に希望を 女性の力を信じて!」と表紙に掲げて、何を目指してるのかよく分からんということです。「婦人公論」の考える希望ってなんなんですかね。いっそ氷川きよしクンのグラビアと官能特集を毎号掲載した方が希望もわいてくるんじゃないかな。「婦人公論」はエロ雑誌になるべきだと強く主張します!
(亀井百合子)

『婦人公論 2011年 6/22号』

江原啓之の「セックスよろず相談室」復活希望!


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女性誌速攻レビュー,婦人公論

最終更新:2011/06/29 17:45
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