コラム
[連載]そうだソルティー京都、行こう

二次元もアイドルもなんでも来いっ! 新選組の聖地・壬生寺の現実

2011/05/31 11:45

 京都は、世界屈指の観光地。そして女の憧れの地である。美味いもん食って、寺社を見て、お洒落して、勉強する。何でもかんでも「京都でする」のが女の憧れなのだ。女性誌はこぞって京都特集を組み、ガイド本や京都観光エッセイがボロボロ出版されている。確かに京都には歴史がある。名産品がある。美味がある……そして誰も取り上げないけれど「しょっぱい京都」もある。

 しかし京都のほんとうの魅力は、こういうソルティーなところにあるのだ。上品ぶっている女性誌では取り上げないほんとうの京都の姿を、しっかり焼き付けて欲しい。そうだソルティー京都、行こう。

【第5回 壬生寺】

 滅びゆくものを見るのは、切ない。もうすでに決定してしまい、動かすことのできない過去の歴史をのぞいてみると、そこには、じれったいほどに切ない事件や人々がたくさん登場する。

 その中でも幕末の代表格・新選組は、多くの人たちを魅了してやまない切なさがある。時代の流れを読み切ることができず、滅びゆく過去の遺産を守るために命を賭けて戦い、散っていった男たちだからだ。

 四条大宮から南西に下った辺りの一帯は、新選組ファン垂ぜんの観光地である。芹沢鴨がつまづいた文机が現存する八木家、山南敬助のお墓、島原の角屋もてなしの文化美術館など、新選組をしのばせる数々の思い出が残っている。その中に、ひときわ異彩を放っているのが、兵法調練場だった壬生寺である。

 そもそも壬生の辺り一帯がすでに修学旅行ノリの観光地化していて、もうしょっぱい。そこらで寂しい気持ちになりそうな新選組グッズがたくさん買える。町はあさぎ色でいっぱいだ。そしてその真ん中にドーンと構えているのが、壬生寺なのだ。ちなみにここも平安神宮と同じように、通にはよく知られたソルティー観光地である。

 ここの醍醐味は、阿弥陀堂(土産物屋だとばっかり思ってました)から100円を投入して入る壬生塚だ。

 そこに足を踏み入れる前に、心の準備をしようと、売店で新選組グッズを見ていた。そこに「新選組英名録」というのがあった。へーえ、えーと、誰だっけな、『壬生義士伝』(浅田次郎/文藝春秋)の主人公は……木下藤吉郎じゃなくて……。

何人分かるかな?

 すると売店のおばさんが出てきて、

「誰を探しているのか当てましょうか、吉村貫一郎でしょう?」

 ああ、それそれ、そんな名前だった。ありがとうおばさん、と思っていると、

「みなさん、それを見て『本当に居たんだ!』って言うんですよ」

 と言う。まあ彼が実在したというのは、新選組フェチの姉から聞いて知っていたのだけれど、そうですか、やっぱりみんな気になるのね。

 さて意を決して壬生塚に足を踏み入れる。ここは簡単に説明すると、ちっちゃい庭だ。まずはチャリンと投入口に100円玉を入れると聴ける「あゝ新撰組」がある。

どれだけの需要があるのか、心底謎な碑

 ブンチャっブンチャっと元気よく音楽が始まり、三橋美智也が歌い出す。ここで私たちは、ひとつ気がつかなければいけないことがある。「ここは、新選組なら何でもアリのフレキシブルな場所なんだ」ということだ。

 もちろん、近藤勇の銅像とか隊士たちの墓もある。だけどそれらは、なんの因果があってここにあるのかよく分かんない池に浮かぶ竜神像とかにパワーを奪われ、ひっそりとたたずんでる感がある。

……っていうか、案内図にしか説明がないので、正直、どれが隊士のお墓で、どれが近藤勇の遺髪塔なのかよく分からなくて、案内図と現地とを何度も往復してしまいました。説明がイマイチ不十分なのも、ソルティー観光地の必須条件でしたね。

 そしてこの寺のフレキシブルなところは、一つのテーブルに集約されている。そこには、どっかのペンションにあるような「みんなのノート」が置いてある。数年前に来たときは、大河ファンと新選組を題材とした少女マンガ『風光る』(渡辺多恵子/小学館)のファンの書き込みで満載だった。今回はどうか。『銀魂』(空知英秋/集英社)とゲーム『薄桜鬼』でいっぱいだ。この寺は、新選組にまつわる作品を好きになったら訪れたい聖地のようになっているのである。

 そして今回目を見張ったのは、机の上に置いてあった一枚のシート。なんと、「新選組リアンが成人式を行いました」というお知らせなのだ。もーホント、寛大な心に降参である。

お互いいろいろあやかってるわけだ

 しかし何より今回しょっぱかったのは、次に語るエピソード。地下の資料室を含め、ひと通り見終わってまた売店に戻ってきたときのことだ。隊士の名前入りストラップを見ていると、売店のおばさんが、「土方や沖田は昔からだけど、最近はなぜか原田左之助がよく売れるようになったのよ」と言う。そりゃ『薄桜鬼』ファンが来てるからだよ。簡単に現象を説明して、面白いですね、と返事をすると、

「さっきね、そこにある新選組英名録を見て、一生懸命誰かを探している女性がいたの。探しているのは吉村貫一郎でしょう?って言ったら、そうですって」

 うん、知ってるよそれ、私だし……たぶん……。

 新選組ならなんでもウエルカムという豪快な姿勢の壬生寺は、ほんの30分前にやりとりした相手の顔をさっぱり忘れ去るという、豪快な売店のおばさんが接客してくれるのであった。とりあえず、新選組ファンなら必見のしょっぱい観光地ってことで。

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。少女向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『上京物語(初回限定盤)(DVD付)』

まだいます。


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最終更新:2019/05/21 18:38
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