妹を”オンナ”にすべく姉の指導は「干渉」? 「幸せ」比べ?
中学生のころに仲が良かった三姉妹の末っ子は、兄と二人兄妹の私には想像ができない独特なセオリーを持ってた。姉の言うことはゼッタイ。末っ子の選んだ服はもちろん、彼氏までも、姉ふたりが厳しくチェックして判断を下す「姉ゲート」を通さなければならないのだ。そんな彼女を「虐げられてるんじゃない?」なんて傍観していたのだけれど、本人にとってはそれが日常。虐げられてるなんて微塵も感じず、姉二人の言うことは絶対だと信じてた。逆に「姉」は、妹に対して「それっておせっかいじゃない?」ってくらい、妹が選ぶ物事を心配したりジャッジしたりする。姉は、母親以上に愛情を込めて妹を育てる。独特で不思議な主従関係が、姉妹間では当然のように成立している。ハタから見れば仲良し姉妹のほほ笑ましい光景だけれど、そこには、異性間の恋愛の延長上にある「男が女を育てる」純粋な楽しさとは異なり、自分と相手との「幸せ」の比較という問題が絡んでいる。
『試着室』の主人公である亜弓と姉の琴音も、まさにそのパターン。セックスを知らない「幸せ」を謳歌している妹と、既婚という「幸せ」をつかみつつもセックスレスという悲しみを持つ姉の対比から、この物語は始まる。
姉の紹介で、銀座の高級仕立屋でアルバイトをすることになった音大生の亜弓。アルバイトを雇う必要がないような客足のまばらな仕立屋に、珍しく、若くて快活なデパート勤務の男性、菊地が、客としてやってくる。
ふたりきりの試着室で不慣れな採寸をする亜弓は、菊地の足に間違ってオッパイを乗せてしまったり、ついでに乳首を足の指でいじられちゃったり、股下の採寸をするときに、間違って股間を指で触れてしまったりする。どうやったら「間違って」他人の足にオッパイを乗せるの? とツッコみたくなるけれど、それは官能小説特有のオフザケなのでお許しを。何事もなかったように取りつくろい、菊地を帰す亜弓だったが、その後、仕立屋のオーナー西園寺からの「お仕置き」が待っていた。淫らな行為をした亜弓を叱責する西園寺。窓際に押し付けて両足を開かせ、背後から性器を押しつけ、初めてのお仕置きを繰り広げる。
西園寺に責められている亜弓を店の外から見ていた菊地。そもそも姉の琴音は、亜弓が西園寺にお仕置きされることを望んでアルバイトを薦めたのだった。先に仕立屋でのパートをし、西園寺のお仕置きを受けていた琴音は、オクテな亜弓のオンナを開花させるために仕立屋のアルバイトに誘った。なんて大きなお世話なんだろう。もちろん、そこには純粋なお世話以上に、琴音の密かな願望があったからなのだが。亜弓がオンナを開花させれば、もっと愉しいことができる……三人で。
妹の亜弓と、姉の琴音。亜弓に惚れてしまった菊地とオーナーの西園寺。四人の奇妙かつ超ウケるセックスライフ。亜弓と菊地はお互いに想い合っていることを知ってるくせに、強引に菊池をセックスへ持ち込む琴音。妹の純真な心を踏みつけるように、経験値をフル稼働して菊地を快楽へと導く。
お姉さんって、妹にとってやっぱり偉大。処女でオドオドしていた亜弓だけれど、西園寺と琴音の調教によって性の奴隷になり、快楽を追求するエロ女へと変貌してしまった。その変貌っぷりときたら、アルバイト先の試着室はもちろん、デパートの催事場内の試着室でも、菊地の手マンに感じまくる始末。
当人同士にしか分からない姉妹間の争い。でもやっぱり、姉は妹よりも優位に立つべきで、妹から見上げられる存在でなければならない。作品中で焦点を当てられているのは妹と姉で、デパートマンの菊地も、調教師のオーナーですらも、実は、姉が妹を育てるためのコマにしかすぎないのかもしれない。
そして肝心なのは、女が女を育てるということは、育てている自分自身が、実は一番オイシイ思いをしないといけないということ。連日、亜弓を菊地にたき付けるついでにセックスしちゃったり、オーナーの調教も受けていたりして、すっかり女っぷりが上がった姉の琴音は、ある夜、セックスレスだった夫に激しく求められる。「俺のためなのか?」とのんきな質問をするダンナにうそで返し、すっかり冷めていた淡白な夫の性欲に火を付けることができた。
姉は、おうちセックスという最高の「幸せ」を手にし、妹は、姉のおかげでセックスという「幸せ」を手に入れた。そしてラストは華々しく、姉妹そろっての大団円4P。官能小説で言うところの「幸せ」を手に入れたようで、よかったよかった! 現実もこんなふうにセックスだけで幸せになれるんだったら楽なのにね。
とりあえず助兵衛な姉妹でした
【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】
・ありえないセックスが続く、官能”ファンタジー”小説『蜜色の秘書室』
・直木賞作家が描く、いやらしくもせつない官能小説『海の見えるホテル』
・快楽と復讐を同時に果たす……官能小説における「女の悦び」