笑いに厳しいダウンタウン浜田による、悔やまれる「延長戦」
今回ツッコませていただくのは、2月16日に放送された『イチハチ~怒りの芸能人16人大集合! 浜田の前で理不尽キレまくり2時間SP・延長戦』(TBS系)。「前週の9日に放送した2時間スペシャルで入りきらなかったキレキレエピソードを公開」という名目で「延長戦」がわざわざ放送されたのだが、これがあまりにひどかった。
何がひどいって、わざわざ「延長戦」としているにもかかわらず、半分以上が前週に放送された内容の「再放送」だったこと。
いよいよ延長戦の「本題」と思われる、司会・浜田雅功のブチ切れ伝説が始まったのは、番組終盤となった43分頃である。内容は「マジシャンと同じ楽屋になったとき、マジック用のハトがうるさいといって、剣で突きまくった」「アイドルが誕生日祝いの手作りケーキを持ってきたが、1口食べて『不味い』といってケーキを壁に叩きつけた」「スタッフを階段から回し蹴りで突き落とした」などで、結局、「理不尽キレまくりグランプリ」は浜田という予想通りの結果だった。
結局、このわずか数分のための壮大な前フリを2週に渡ってやってきたわけだ。しかも、前フリの内容がまた、妙だった。
普段は「トークがうまい」はずのブラックマヨネーズ・吉田敬がことごとくスベり、いたたまれなくなった隣席のフットボールアワー・後藤輝基が、「スリーアウトチェンジです……」と力なく告げるほどの妙な緊迫感。小藪千豊のキレぶりなども、リアルに理不尽すぎて、笑えない空気が漂っていた。のびのびと自分のトークができていたのは、モデルなどかわいい女の悪口になると、いつになく冴えを見せる北陽・虻川美穂子と、出産を終えて迫力を増した鈴木紗理奈ぐらい。
なぜなのか。浜田の前でうろたえ、作り話をしたり、顔色を伺いながら話の着地点を探ったりする吉本芸人たちの怯えは、圧倒的強者を前に、食われるしかない運命の草食動物のように見えてならなかった。
ここで思い出したのが、『ガキの使いやあらへんで!!~笑ってはいけない』シリーズで、浜田が仕掛人になった途端にハードになる罰ゲームに対し、ココリコの二人や山崎邦正などが震えながら挙動不審にあたりを見回し、「浜田さん……浜田さん(罰ゲーム会場に)来てるんちゃうか」と呟いたシーン。猛獣の訪れを嗅覚で弱者たちが察知してしまう名場面であった。
ところで、ブチ切れ伝説が多数ある一方で、「実は常識人」「まっとうな人」の噂も多い浜田。『あらびき団』(TBS系)で団長を務めたときの的確なコメント・講評は話題になっていたし、すぐ笑うゲラ&身内に甘い相方・松本人志よりも、笑いに対するシビアさや公平な審査については、浜田のほうを推す声も多い。
余談だが、深夜番組『浜ちゃんが!』(日本テレビ系、1月19日放送分)に、楽しんごが登場したとき。男性には「あ~ん♪」と甘えてみせるのがお約束の楽しんごが、浜田にはなぜか「お父さん♪」と言う珍しい絡み方をしていた。だが、2回目に「お父さん♪」と絡んだ楽しんごへの浜田のひと言は……。
「そこは『お母さん』言うとけや」
実に短く、厳しく、的確なアドバイス。浜田の本当の恐ろしさは、暴力ばかりでなく、笑いに対する厳しさなのではないだろうか。
それだけに、今回の『イチハチ』のお粗末な「延長戦」。浜田自身は納得だったのかどうか気になるところだ。
(田幸和歌子)
笑いはわからんが、嫁のパンチは浜ちゃん圧勝!!
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