『女ぎらい』刊行記念インタビュー(後編)

オヤジ言語を操る”バイリンギャル”こそ、女性がサバイブする手段

2010/12/07 11:45
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撮影:松本路子

(前編はこちら)

――ちょっと話が飛躍しますが、例えばジャニーズや韓流、BLなど男性を消費する文化が市民権を得ている現実と、女性の社会進出との関連性はどのように考えられますか?

上野 「an・an」(マガジンハウス)が男のヌードを特集したときから、バーチャルな男性消費のマーケットは拡大しているとは思います。マーケットが拡大する為には、まず女に購買力があるということと、欲望をあからさまにできるという二つの条件がありますね。

――ということは、女性が欲望をあからさまにできる環境は整ったと?

上野 バーチャルな男性の消費よりももっと直接的なホストクラブもあるし、女性向けの男性デリヘルもあるくらいだから、女性の欲望を無視できなくなったということじゃないでしょうか。いくら欲望があっても購買力が伴わなければマーケットは成立しません。

――最近では「女子会」も市場化されています。


上野 男と女は異文化ですね。異文化接触というのは興奮の原因でもあるけど、一方で異文化摩擦のようにストレスの原因でもあります。ただ、女は男の存在がもろにストレスになるけど、男は女を完全に無視することが出来る権利があると思っているから、女がいてもストレスにならないだけ。でも男だって、本当は男同士でつるんでいる方がずっとラクなんじゃないかしら。自分たちの仲間に女を入れたとしても、所詮”名誉男性”。本当の意味で対等な関係にはなれない。女子会はそれを逆手に取ったもの。ムラのおばちゃんたちの夜這いトークとか、女だけの世界のロッカールームトークは昔からあったけど、それが『Sex and the City』のようなメディアによって目につくようになっただけ。女がそれを男の眼から隠さなくなったんでしょう。

――その現象に、「女子会」という言葉を付けられたことで、目新しく見えるだけですよね。

上野 そのとおり。でも名付けるということは、存在を認める第一歩。大事ですからね。女子会の「会」を「界」に変えてみたら分かりやすい。女子界には女子界にしか通じない言語があります。だけど女が自立するには女子界だけでは生きられないから、オヤジ界での共通言語も習得しなきゃならない。だから私は若い女性たちに「バイリンギャルになりなさい」って言ってます。

――私個人的には、早く”女”を降りて、村社会のおばちゃんみたいに井戸の周りでエグい話がしたいのです。我々ロスジェネ世代にとっては、バブル世代の女性が”おばちゃん”という着地点を見失い、空中でさ迷う姿がどうも痛々しく思えてなりません。

上野 たしかに。女としての賞味期限を1日でも先延ばしにしたいとアンチエイジングに励む女たちって、イタイですね。おばちゃんになると、男の評価軸から外れてせいせいしますよ。あなたたちの世代って大変ね。仕事、結婚、女としての現役感、介護……全部を背負うことになるでしょう? 同情するわ。でも、私たちの世代の処方箋は、次世代には効かない。だから自分たちがモデルをつくりだすしかないんです。うれしいことに『女ぎらい』の読者は、20代の若い女性も多いみたいだから、今願っていることは若い世代から次世代のフェミニズムの担い手が出ること。それで早く「上野のやり方なんか、古いんだよ!」って言ってほしいし、それを待っているの。
(西澤千央)


上野千鶴子
1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。現在、東京大学大学院教授。女性学、ジェンダー研究のパイオニア。1980年代以降、常に時代の先端を疾走し、現代社会のさまざまな問題を問い続けてきたフェミニスト。1994年『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受賞。

『女ぎらい――ニッポンのミソジニー』

ミソジニー。男にとっては「女性嫌悪」、女にとっては「自己嫌悪」。「皇室」から「婚活」「負け犬」「DV」「モテ」「少年愛」「自傷」「援交」「東電OL」「秋葉原事件」まで……上野千鶴子が男社会の宿痾を衝く。

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最終更新:2011/03/13 17:44