細く山道を通り、着いた先は……どこまでも期待を裏切る松尾大社有料ゾーン
【第2回松尾大社(有料ゾーン)編】
さて前回、松尾大社がいかにランクの高い、由緒ある神社なのかをご紹介した。そしてそんな威厳ある神社がいかにソルティーであるかも。「ものすごく学業優秀なんだけど、ちょっと変わってるわよね……」という隣の息子さんみたいな感じ。
しかし前回の記事で驚いているようではまだ甘い。涼しくもバタ臭い顔で酒を混ぜ続けるフィリップも、所詮は無料ゾーンの住人である。ここ松尾大社の醍醐味は、有料ゾーンにこそあるのだ。では拝殿右側で庭園の入園券を500円で購入し、いざ魅惑の地へ足を踏み入れよう。
まず入り口がこれだ。かがまないと入れない。金取っときながら「入るな」と言っているような拒絶感である。
チケットを箱の中に入れ、右に折れるとまたもや関門が。今度は鉄骨。
「頭上注意」とあるけど、ぶつけたらほんとうに痛そうこの廊下をくぐると、いきなり庭の中腹に出る。ここは「曲水の庭」。ちなみにこの有料券は、庭を見るための券である。たいていの庭は、全景を端っこから眺めさせてもらうものだけど、ここではまさに庭の中にいきなり登場させられるので、自分も庭の一部に。おまけに道がどこだかもよく分からず、石畳の合間をくねくねと水が流れているので、適当にジャンプしながら、なんとなく未開の方向へ進むという感じである。地面は平じゃないし、ヒール履いてったら泣きそうだ。空いている時ならいいけれど、大混雑したら庭を見に金を払ったんだか足元を凝視してる人の頭を見に来たんだか、迷うところだろう。ただ、これまで3回ほど季節を変えて来ているけれど、他に人がいた試しがないので、たぶん杞憂かと。
そして次に現れるのが、宝物館。ここもすばらしい。撮影禁止なのも頷けるゴージャスな空間である。何しろ、織田信長、徳川家康、源頼朝といった有名人たちのお手紙が見られるのである。さすがは最高級ランク神社。
しかしここは、あの「松尾大社」。有名人たちのお手紙だってタダでは見せません。なんと紫色した壁一面に金文字でデカデカとお手紙文字がプリントしてあるのである。紫の壁にも驚愕だけど、なぜ有名人だからといって金文字にしなければならなかったのか。っていうか、どうして複製でもいいから原本に近い姿の文書を見せてくれないのか……。
ミラクル宝物館。中は撮影禁止なので外観のみで失礼宝物館で、中心に据えられている御神像の説明テープを流してもらう。熱心な係員が担当の場合、神像の見方を教えてくれたりする。それが、どこの文献の話でも調査をしたわけでもない、「~だと思う」とか「~なのではないか」「という気がする」みたいなドメスティックな意見で大変興味深かった。しかし彼の神像に対する深い愛がひしひしと伝わる説明である。
さて宝物館の続きにある茶室では、追加料金500円でお茶がいただける。この茶室も隣のおばあちゃん家みたいな感じで庶民的なので、格式高い庭園見学に疲れたら一休みするのもいいだろう。
宝物館を終えたら、さあいよいよクライマックスに向かってもうひとがんばりだ。その前に、恒例の関門。
またもや鉄骨くぐり。タダで庭は見せませんという決
意の表れのようだ松尾大社では、「入っちゃいけなそうなところの先に面白いものがある」という造りなのである。もちろんここもくぐって次に進む。
人一人がやっと通れる小さな橋を渡り......
乾いた水路の脇道を通る頃には「ホントにここでいい
の?」「こっちでいいの?」という恐怖に襲われる
あの、心細い道を通らされたのは、このあじさい苑
を見るためだったのである
あじさい苑の入り口扉にある注意札。いいの? ここ、
ホントに入っていいの?
長い山道を登り切った先にあるのは......
かわらけ投げ! 通常かわらけ投げって、谷の底とか
見晴らしのいいところに投げるものだけど、ここでは
違います
投げる先はやっぱり樽......かわらけ投げをやるかどうかは別として、あじさい苑を登り切ったら、今度は下りである。初夏には一面紫の花が咲き乱れるのであろうこの庭だが、脇には物置になってる丸太小屋が大きく口を開けていて、あじさい苑の管理を一生懸命やってるんだなーってことがよくわかる機材をかいま見られる。
こうして名残惜しいあじさい苑をあとにして、「押していいのかな?」と不安になる木戸を押し開け、先に進む。方角的には宝物館の裏側になるので、神社から遠ざかってない分、少し安心できる。「ホントにこっちでいいの?」という小路を通り、まもなく夢の有料ゾーンは終了である。パイプくわえたカメの口からじょんろじょんろと出る御神水をいただき、あじさい苑での疲れを取ろう。
繰り返しになるけれど、この有料ゾーンは庭園を見るために入る。しかしミラクルな旅を終えて思うことは「庭ってどれのことだっけ?」。我々の記憶に残っているのは、「見たいならどうぞ」的に、けだるく迎えてくれた数々のアトラクションだ。500円ではもったいないくらいの世界である。
ちなみに松尾大社は「松尾さん」と親しみ深く呼ばれているようである。うん、このソルティーっぷりには「最高級神社だえっへん!」という格式は感じられない。確かに隣の「松尾さん」である。
(和久井香菜子)サイ女とサライ、何がどう違うとこうなるやら……
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