名作漫才ネタの”カバー”は、お笑いの新たなスタイルになる?
「M-1ファイナリストたちが、名作漫才をカバー」。かつて大人気を博した漫才ネタを、M-1ファイナリストの芸人たちが”カバー”するのだという。それが、11月14日に放送された『M-1グランプリ プレゼンツ MANZAIカバーズ』(テレビ朝日系)という番組だ。
この番組趣旨、企画的にはすごく面白そうなのだが、実際のところはどうなんだろうか。いかにも会議室先行ぽい香りが漂ってくるのだが……。番組冒頭、”カバー”といったらこの人、という感じにいきなり徳永英明の歌が流れてきた。そこに、
「歌の世界ではよく見かける手法だが……。漫才ネタのカバーは、かつてなかったことなのだ!」
という張り切ったナレーションがかぶせられる。さらに、
「漫才の世界では画期的!!」
「伝説の漫才師たちの名作ネタをカバー!!」
といった仰々しい言葉が仰々しい書体で、でかでかと画面に出てくる。さらにまたナレーションがあおる。
「この番組から新たな伝説が生まれる!」
この自画自賛感に一層、机上の名企画的なものを感じ、大丈夫か”カバー漫才”!? といった不安な気持ちはますます強くなった。今回カバー漫才を披露した芸人と、ネタの「カバー」元は、以下の通り。
・ナイツ→青空球児・好児
・笑い飯→Wヤング
・ダイアン→中田ダイマル・ラケット
・東京ダイナマイト→ダウンタウン
・モンスターエンジン→夢路いとし・喜味こいし
・NON STYLE→人生幸朗・生恵幸子
見てのとおり、元ネタにはかなりのレジェンドクラスの芸人の名前が並んでいる。B&Bなら「広島VS岡山(もみじまんじゅう! のやつ)」、球児・好児なら「ゲロゲーロ」、人生幸朗の「責任者出てこい!」とか、コンビ名を見ただけで代表的なネタがすぐに浮かんでくる。「カバー」するネタは、本人たちのセレクトなのかどうか分からないが、それぞれ結構合っている。たとえばパンクブーブーとB&Bの漫才のたたみかけるようなスピード感は相性ぴったりなうえ、「広島VS岡山」を、自分たちの出身地「福岡VS大分」に変え、それでいて借り物感が薄く、新鮮な一面も見える。「ゲロゲーロ、ゲロゲーロ!」「違うよ! トノサマガエルだよ!」と、一人でダミ声をあげて汗だくの大忙しのナイツ塙の姿は、なかなか見られないと思う。モンスターエンジンの、正当派スタイルとの相性の良さというのもあらためて実感した。正直、「オリジナルのネタより面白いかも?」と思ってしまうようなコンビもいたりして、これを機に、落語みたいに漫才の名作ネタも、古典化して受け継いでいってもいいような気がした。
番組後半は、同じ面々による「新ネタ」を披露する構成。ここではなぜかカバーパートにいなかったハリセンボンが加わっていたのだが、披露したネタは、「課長じゃねーよ!」「ブタじゃねーよ!」「とんこつじゃねーよ!」という、おなじみの「○○じゃねーよ!」連発で、安心して笑える面白さだったものの、「新ネタ」というより既視感が強い。もしかしたらこれ、「セルフカバー」なのか!? だからカバーパートに出てなかったのか、やるなあハリセンボン。と、勝手に納得した。ハリセンボンが名作ネタをカバーするならどのコンビになるのだろう。
(太田サトル)
『M-1 グランプリ the BEST 2007 ~ 2009 初回完全限定生産』
リミックスっつう手段もあるよね
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