『女性誌にはゼッタイ書けないコスメの常識』刊行インタビュー

美容ジプシーを救え! 美容大国・日本の偏りまくりの美容事情とは?

2010/11/29 11:45
iwamotobook.jpg
『女性誌にはゼッタイ書けないコ
スメの常識』(ディスカヴァー・
トゥエンティワン)

 パリ在住の皮膚科専門医であり、美容ジャーナリストとして、日本とフランスを股にかけて活躍する岩本麻奈さん。美容のプロである彼女が、溢れる美容情報に翻弄される「美容ジプシー」の日本女性のために書いたのが、『女性誌にはゼッタイ書けないコスメの常識』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。著書の中では、日本女性が鵜呑みにしている美容都市伝説をぶった斬り、まさに目からウロコ。そんな岩本さんに、日本の美容事情や女性誌におけるコスメ情報の偏りについて伺ってきました。

――まずはじめに『女性誌にはゼッタイ書けないコスメの常識』を出版されたきっかけは?

岩本麻奈氏(以下、岩本) 日本はとにかくあらゆる化粧品、美容情報で溢れかえっています。私の元にも日々更新される美容情報に惑わされた人から相談のメールが寄せられます。この間も「『ためして××××』という番組に美容専門医が出演して、『顔は触ってはダメ。触るほどに、皮ふに炎症が起こります』と言っていました。ではマッサージは? エステも意味がないの?」という問い合わせが。このメールの差出人は、現役で活躍する優秀な皮膚科医さんです。医師でさえ、惑わされる昨今の情報過多。これでは、一般の女性が迷って当たり前です。日本の美容業界の一部からのアタックは覚悟の上(笑)、美容業界に身を置くものとして、真実を伝えたいと思って、この本の執筆を決めました!

――日本は、他の国に比べて、そんなに美容の情報で溢れているのですか?

岩本 日本では、美容雑誌が本屋さんの店頭を何冊も飾り、ほとんどの一般女性誌に「コスメ」「肌」「美」といった文字が踊っています。美の大国と言われているフランスでは、メイクやスキンケアの美容情報専門誌は1、2種類しかありませんし、一般的な女性誌でも、美容が占める割合はページの10%あるかないか。しかも高級ブランドのコスメでも公平に判断して「このコスメは値段ほどの意味はない!」と、ハッキリと言い切っている比較本でさえあるんです。

――日本では、まずあり得ないですね。それにしても先生の本は、タイトルからして、女性誌にケンカを売っているようですね(笑)。具体的には、女性誌にどのようなことを書くのがタブーなのですか?


岩本 すべてがそうだとは言いませんが、女性誌では、どうしてもスポンサーになっているコスメ=いいものという位置づけにせざるを得ない。広告などお金を出してくれる化粧品会社の目を気にしながら、記事を作らざるを得ないというか……。私も、今まで何度も美容誌で取材していただいていますが、例えばヘア特集で、荒れやすくて有名な毛染め成分について『特殊な成分なので、肌がかぶれることがよくある』とコメントしても、毛染めメーカーがスポンサーであったりすると、誌面ではその部分が全部削られてカタチになる。それが当たり前。女性誌では、基本的には商品のマイナス面はもちろん、いいところしか書けないので、当たり障りのない内容になってしまうんです。「前の商品と効き目は変わらない」「はっきりした効果は期待できない」とは、本当のことであっても書けません。でも、私にはしがらみがありませんから……。

――最近では、1本十万円以上する化粧水など医療コスメの特集も組まれていますが……。

岩本 値段というのは、広告にいくらかけているとか、開発にどのくらい時間をかけたか、どれだけ高級な原料を使っているか、生産ロット数さらに容器やパッケージなど複数の要因で決まっています。今までさまざまな高級コスメが市場にでましたが、やっぱり”薬”レベルの効果のあるものに出会ったことはないし、逆にそこまで効果があるとすれば、それはもうコスメとは呼べなくなります。それにどんなに優秀なコスメでも、続けて使わなければ効果はありません。たとえば、10万円の高機能コスメを2カ月に1本のペースで購入したら、半年で30万円。そんなお金があるなら、私だったらプチ整形をしますね(笑)。例えばある程度シミをレーザーで薄くした後に美白コスメでケアするとか。だって、その方がよっぽど短期間で効果が出るし、結果的には安くすむんじゃないかな(笑)。

iwamoto1.jpg
日本の美容雑誌を眺めながら語る
岩本先生。


――最近では、ミネラルファンデーションもバカ売れしています。日本の美容業界は、このまま自然派に回帰していくのでしょうか?

岩本 高機能コスメの対極にあるのが自然派コスメ。どちらも好み(嗜好)の問題ですので、私がとやかくいうものではありません。ただしミネラルファンデに関しては、フランスでは20年以上も前からあったものだし、パウダーは基本、ミネラルで出来ているんです。今まで鉱物だと言っていたものをミネラルと言い換えただけで、日本の女性は飛びついてしまう。胎盤と言えば拒否反応を示すのに、プラセンタと言い換えたら試す人が増えたのと同じ現象ですね。言葉が持つイメージに左右されちゃうんですね。ビジネスが巧みな人は、そういうところにつけ込むんです(笑)。

――そもそも日本人の美容ジプシーの背景には、「年を取ることがコワイ」というある種、脅迫概念に近いような考えがあります。シミやシワが出来たら、女性としておしまいという風潮さえあります。

岩本 日本の行きすぎたアンチエイジングの風潮は、よくないですね。フランスでは、多少シミやシワがあっても、人生を謳歌している人ほど美しいと言われています。内面から出るオーラを大切にするし、話が面白いかどうかも魅力になる。逆に、シミやシワがなくてハリのある美肌を持っている人でも、美容のことしか語れない「美容おたく」は男性にも女性にもあまり相手にされません。というか、話の中に美容だとかアンチエイジングだとかが出てくることなんて、滅多にないんです。

――日本の女性も、フランス式の美を取り入れたら、楽になれそうですね。

岩本 そうなんです。もともと日本女性のお肌って世界でも抜きんでて美しいんですよ。土台がいいのだから迷わないで、自信を持ってほしいですね。そのためには、日本の男性にありがちな”女は若ければ若いほどいい”という風潮を気にしないことも大切。ちなみにフランスでは、ヴィンテージのワインがそうであるように、成熟した香りを放つ大人の女性こそ美しいという価値観が厳然として存在します。フランスの男性は、若さがもたらす魅力は一過性のもので、とらわれることに意味はないということをちゃんと理解しているのです。

――それは羨ましい!  日本人の男性も「女性は若いほどいい」という価値観を捨ててくれれば、若づくりしなくて済むのに(笑)。

岩本 そう考えると、男性の教育も必要になってきますよ。とはいえ、今のおやじ世代の価値観は、今さら変えることはできません。だから今、子どもを育てているお母さんに、声を大にして言いたいんです。明るく太陽のように、子どもと接してくださいって。シミができたと嘆いたり、若い頃はよかったとグチをこぼしたり……。そんな姿を見せると、子どもが大人になったときに「やっぱり、若い方がいいな。年取ると愚痴っぽくなるし…….」と、大人の女性にマイナスイメージを抱き小娘に走ってしまうのです(笑)。

――最後に、日本の美容ジプシーたちにメッセージを!

岩本 長い人生を輝きながら生きていけるよう、感性を大切にして、あなたがあなたである由縁、あなたしか持ち得ないオリジナリティーに磨きをかけてください。旅をしたり、人に出会ったり、美しい芸術に触れたり、名作を読んで感動したり、美容にかける時間をそのまま内面を磨く時間にあててほしいくらい。そして最後に、溢れる情報に惑わされずに、自分にとってよいものを見極める目を持っていただきたい。そのためにはあなたが今、当たり前だと思っている美容都市伝説の真偽を知ることも大切なんですよ。

 幸せになりたいのであれば、美容情報には、ズボラでいていいのだ。よく笑って、フローラルな香りがする岩本さんと話すと、女性の魅力とはシワの有無なんかじゃ決まらないのだ、太陽なような女性が一番魅力的! そう感じました。
(インタビュー・文=平田桃子)

岩本麻奈(いわもと・まな)
皮膚科専門医・コスメ開発プロデューサー。東京女子医大卒。慶應大学医学部皮膚科教室での研修後、済生会中央病院などに7年間勤務した後、南フランスへ。レーザー治療をはじめ、美容皮膚科学、抗老化医学などを研修。現在はパリの中心部に居を構え、化粧品会社のコンサルタントを務める傍ら、コスメプロデューサー、ジャーナリストとして活躍。著書に『美の事典』(WAVE出版)、『Dr.MANAのそんな肌でいいのですか?』(講談社)などがある。
公式ブログ

『女性誌にはゼッタイ書けないコスメの常識』¥1,260/ディスカヴァー・トゥエンティワン
「年の数ほどパッティングするといいって本当?」「泡を長時間、顔にのせていれば汚れはとれますか?」など、まことしやかにささやかれている美容都市伝説を、Q&A方式で一刀両断。
amazon_associate_logo.jpg

【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】
資生堂「IN&ON」に見る、化粧品と美容医療のバランス
40オンナを囲む「若くなきゃ」病~美STORYと美顔器~
“幸せマインド”を作る、姫系コスメの実力

最終更新:2011/10/04 19:20