カルチャー
『このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100』刊行記念インタビュー

「人生で大切なことは時代劇で学んだ」、ちょんまげ好き女の独特の人生観

2010/09/08 12:00
『このマゲがスゴい!! マゲ女的
時代劇ベスト100』(講談社)

 福山雅治主演の『龍馬伝』しかり、ゲームソフト『戦国BASARA』しかり、世はすっかり歴史ブームである。特に、『BASARA』に登場するイケメン武将をきっかけに、歴史にハマる歴史好き女子は”歴女”と呼ばれ社会現象化するほど。しかし、華々しい歴女たちの活躍の陰で、野菊のようにひっそりと活動を続けている時代劇好き女子たちが存在するのをご存じだろうか。チョンマゲ好き女子、通称”マゲ女”である。ジャニーズよりも里見浩太朗、韓流よりも一刀流……時代劇に身も心も奪われたマゲ女たちが、これまたひっそりと結成した”チョンマゲ愛好会女子部”の活動記録を一冊にまとめたのが『このマゲがスゴい!!  マゲ女的時代劇ベスト100』(講談社)。本書の発売を記念し、マゲ女界の総取締、ライターのペリー荻野部長と、マゲのためなら上司も泣かす部員のカスミ&ミチヨを緊急招集。マゲへの愛を語ってもらった。

――実は私も素質があると思うので、ぜひマゲ女の世界を教えて頂きたいのですが、一番簡単な入り口ってどの辺なんでしょう?

ペリー荻野(以下、ペ):みんな『龍馬伝』はどうなんだろ? 時代劇としては見てないのかな?
カスミ(以下、カ):まあでも、大河ドラマ=時代劇と定義されることには疑問があるんですよね。

:じゃあ原点に戻って『水戸黄門』(TBS系)ですかね。この秋からリニューアルされるんだよね~。
ミチヨ(以下、ミ):あの助さん格さんのキャストが決まった途端に「え~!?」って思いましたもん。
:人相悪いのよ。東幹久も的場浩司も(笑)。
カ:世の中を正す方じゃないよ! ヤンキーとチーマーの匂いがしますし。
:だからこそ、文句言う前に見て欲しいの。そしたらいかに里見浩太朗が素晴らしいかも再確認できるはず(笑)。時代劇はね、小学校の前にある駄菓子屋と同じ。「いつもあるな」と思ってみんな行かないけど、実際行ってみると新しい発見があるのよ。「何、この黒いまんじゅうは?」って思ったら、それが”東幹久助さんまんじゅう”だったりね(笑)。
:そこからどんどんハマっていく……。地上波に飽き足らず、スカパー(時代劇専門チャンネルがある)を契約したら人生崩壊ですよ。

――この間、某チャンネルで見た『くの一忍法帖』はすごかったです。くの一が繰り出す技が……。

:『くの一忍法帖』もマゲ女で散々語り合ったわね~(遠い目)。時代劇はエロあり、殺陣あり、人情ありと本当にエンタテイメントなんですよ。関東なら今、午前中に『暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)やってるから、とりあえず会社半休して見てみるのもおススメ。半休してマツケンさんを見てる自分と向き合ってみるというか。

――半休とって『暴れん坊将軍』を見てる自分と向き合うって、問題が根深そうですね(笑)。三人は、いわゆる普通の恋愛ドラマとかは見ないんですか?

カ、ミ:いや全く見ないんです。
:私は仕事柄見ますけど、どうしてもチョンマゲ角度から見ちゃう。今フジテレビ系で放送されている『JOKER許されざる捜査官』って『必殺仕事人』(テレビ朝日系)だよな~とか。”許せぬ悪を闇で葬る”とか、まんま『必殺』ですよ。
:『JOKER』が分からないんですけど(笑)。
:なんてったってミチヨちゃんは浜崎あゆみを知らなかったくらいだからね。

――言われてみれば『特命係長 只野仁』(テレビ朝日系)も『必殺』っぽいですね。

:そう。ドラマの原点は、チョンマゲにありだと思うね。『ショムニ』だって、これ『大奥』だな~って思ったもん。
:私、『大奥』はあまり好きじゃない。女同士の抗争はちょっと…。
:映画版の『大奥』(二宮和也主演)は結構楽しそうだよ。男女逆転してマゲがいっぱいあるから(笑)。

――マゲの数が鑑賞ポイントだとは知りませんでした(笑)。では「この人にマゲをやってほしい」と思う俳優さんはいますか?

:最近の俳優が全然分からないという欠点があるのですが(笑)。
:私は浅野忠信にマゲになってほしいな。イケメンは世の中にあまた出ていますが、渡世人とか味のある汚れ役が出来る俳優さんが少ない気がするんです。香取慎吾の『座頭市』も、キレイ過ぎるのよ。浅野忠信はバツイチにもなったことだし、今がマゲ時だね!
:俳優はあまり分からないけど、『TVタックル』(テレビ朝日系)が不定期で放送する、時代劇スペシャルは結構好き。
:ハマコー(浜田幸一)はリアルに悪代官だもんね。政治家はマゲが似合うかも。民主党の枝野幸男さんとか。
:馬淵(澄夫)さんには同心をやって欲しい。小泉進次郎は若侍かな。
:兄(小泉孝太郎)はボンボンの殿様で吉原の悪い女に騙される役。お父さんが出てきて解決する(笑)。EXILEも大人数になったことだし、”EXILE時代劇”やって欲しいよね。時代劇って昔はトリッキーなことをたくさんやってたんだよね。『必殺』なんてタイムスリップしたこともあったし。地上波で時代劇が減っているいまだからこそ、そういうツッコミどころ満載の、お祭りみたいな時代劇をやってほしいですよね。

―――皆さんのお話を聞いていると、全ての道はチョンマゲへと続くのだなと気付かされます。

:人生で大切なことは、基本チョンマゲから学んだと思います。時代劇って主役の世界、いわば座長公演みたいなもの。時代考証やら常識やらをとっぱらった自由さは憧れだよね。
:前に、インタビューで杉良様(杉良太郎)が「タラタラやってる若手俳優を劇中で裁く時に、脚本では江戸所払いなんだけど、討ち首獄門にしてやった」って言ってた(笑)。
:許される許される!
:私はチョンマゲで歪んだ恋愛観を受け付けられました。理想は、長唄のお師匠さんに「酒買ってこい!」って言われるの。部屋には酒瓶がゴロゴロしてる。そのお師匠さん、昼間はそんななんだけど、夜は立ちまわって悪を懲らしめてる。そんな男を養っている女になりたいと……。
:そういう場面ばっかり刷り込まれてるからねぇ(笑)。
:私も面倒な男と結婚するくらいなら、鬼平(長谷川平蔵宣以)に囲われたいと思ってた……。
:この間、結婚の話から「私、正妻じゃなくて、三番目くらいでいいな~」って言ったら「なんで?」って驚かれた。「どこからそういう発想になるの?」って。やっぱりそれもマゲからきてるのか。大店の主が週一くらいで通ってくるのが理想だね。
:返り血で汚れてボロボロになって帰ってくる男を優しく受け止める女! それでかんざし買ってくれるの。私、今でもかんざし買ってくれる人にときめく。

――え~と、さすがについていけなくなってきましたが、恋愛面以外に学んだことは?

:話が合う友だちがいないっていうのは、マゲ女の宿命だよね。でも学校でどんなに嫌な事があっても、夜に時代劇があると思うだけで元気になれる。
:「持病の癪が」とか言って、労咳(結核)の物真似しても、誰にも理解されなかった。
:いじめられて家に帰っても、夕方4時から『大岡越前』(TBS系)が裁いてくれるしね。
:そういう意味では孤立するのが怖くなくなりますね。
:ひとり上手だよね。だから群れたがる人たちとは無理なの。ほら、時代劇って座長を目指すものだから。トップを取らないと。
:その辺りは歴女の人たちとは違うかも。あまり集わないから。マゲ好きアピールもしないですもん。

――そういえば、本の中ではマゲ女と歴女との違いについても触れてますよね。 マゲ女の定義ってどういうものなんでしょうか?

:まず年号が分からない(笑)。というかどうでもいい。
:時代考証も気にしない。
:面白ければいいんです。
:私は一日三チョンマゲを日課にしてますけど、見てる作品もバラバラだもん。マゲ女は確かにマゲ好きだけど、知識とかは本当に適当で、どちらかというと「この人に斬ってもらいたい」とか、マゲを糸口にした妄想トークがほとんどなわけで。
:だって、私たちが話していることなんて、『木枯し紋次郎』(フジテレビ系)は多分、お風呂に入ってないから抱かれたくないとか。
:外でヤラれちゃいそうだから嫌だとか。
:要は酒の肴になるかどうかなんです。マゲに興味が少しでもあれば、基本いつでも入会オッケー。

――実は、私も初恋の人が『暴れん坊将軍』だったんですよ。

全員:え~!? じゃあ私たちの仲間じゃないですか!

――でも「なんか、毎回同じことしてるじゃん」って若干ひねくれてきたんですよね。

:私なんて、ひねくれてひねくれてたら360度時代劇に戻ってきちゃった。くるくるっと。あと5年くらいしたら、ひねくれた見方をしている人も『暴れん坊将軍』に戻ってくるのかもよ!
(西澤千央)

ペリー荻野
1962年、愛知県生まれのコラムニスト、時代劇研究家。大学在学中からラジオのパーソナリティ兼ライターとして活躍。新聞、女性誌、テレビ誌等でエッセイやコラムを多数掲載するほか、自らテレビ、ラジオに出演。また、ソニーミュージックのヒット企画である時代劇音楽CD「ちょんまげ天国」シリーズのプロデュースも手がける。主な著書に『ちょんまげだけが人生さ』(日本放送出版協会)、『ちょんまげ八百八町』(玄光社)、『ナゴヤ帝国の逆襲』(洋泉社)などがある。

チョンマゲ愛好会女子部
アスペクトのPR誌『アスペクト』で「チョンマゲだもの」という連載企画が開始される際に結成された。ペリー荻野部長のほかに、某出版社の女性編集者であるカスミとミチヨの二人組が在籍。このコンビは時代的愛好家や書店員の間でマニアックな人気を誇る。

『このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100』

惜しまれつつも休刊となった、PR誌『アスペクト』においてコアなファンを抱えた伝説の連載企画「チョンマゲだもの」。テレビ、映画界では時代劇ファンのバイブルとも言われた同企画を発展拡大し、歴史好きな「歴女(レキジョ)」とは相容れない、女性の時代劇(チョンマゲ)ファン、いわゆる「マゲ女(マゲジョ)」が時代劇ファンのために時代劇の魅力を語り尽くす画期的企画。『必殺』シリーズも再評価されつつある今、マゲが熱い!


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最終更新:2010/09/08 12:00
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