資生堂「IN&ON」に見る、化粧品と美容医療のバランス
今年3月に発売された、資生堂の美容商品「IN&ON」が美容雑誌の「上半期スペシャル大賞」を受賞し、9月21日には新プログラムが投入されるなど、好調な動きを見せている。この商品は40代以上をターゲットに、サプリメント(もしくはドリンク)と美容液、美容マスクが6週間分のセットで販売。化粧品会社がサプリと化粧品をセットで販売するということに注目が集まった商品でもある。
今回はコスメティックプランナーの恩田雅世氏と、美容内科医で、サプリメントの開発など栄養療法に力を入れている斎藤糧三医師に、化粧品とサプリなどの美容医療のパワーバランス、またアンチエイジングの方向性について語ってもらった。
――今回、資生堂が「IN&ON」を市場に投入したことを、率直にどのように思われましたか?
恩田雅世氏(以下、恩田) 私はとうとう業界最大手の資生堂がアンチエイジングの市場にスキンケアとサプリメントをプログラミングした商品を引っさげて参入してきた、ということに衝撃を感じました。というのも、この商品の投入は「アンチエイジングを極めるならば、化粧品だけでは限界がある」ということを示唆することになりかねないからです。昨今では、通販系の化粧品会社でもサプリとスキンケアのセット売りが増えていましたが、資生堂が本格的に参入したことで、この流れが加速するのではないかと思っています。
斎藤糧三氏(以下、斎藤) 僕は、マーケティングの結果の商品だと思っています。もっと言えば、サプリとスキンケアが1つずつでは商品力が弱いから、セットで販売したのかなと。
――「IN&ON」では、「代謝」が大きなテーマとなってます。
斎藤 確かにうちの病院の患者さんでも、代謝が良くない人というのは多いですよ。血液検査をしてみると、タンパク質が欠乏して肌のターンオーバーの頻度が落ちている人が多い。「IN&ON」では詳細な成分は明らかにしていないけど、確かケイヒなどの漢方が配合されてますよね? でも極論を言ってしまうと、漢方ってビタミン群を入れないとちゃんと動いてくれないので、どのぐらい入っているのかが気になりますね。
恩田 栄養療法のプロフェッショナルである斎藤先生から見たら、成分的には突っ込みどころがあるかもしれませんが、私は大手化粧品会社が、美しさには「代謝」が必要なんだということを証明したことに意味があると思っています。これが根付けば、今の若い子たちが中年になった時に簡単にレーザー治療やボトックスに走らず、普段から代謝を上げるような生活をして、自分の身体の最高のパフォーマンスを出すことを目指してくれるようになると思うんですよ。
――「IN&ON」では、代謝向上のためにサプリやドリンクを販売しているわけですが、普段の食事からでは代謝を促す成分(タンパク質など)は採取できないものなのでしょうか?
斎藤 もちろん健康を維持するレベルの栄養素というのは、一般的な食事からでも摂取できます。ただ、肌のターンオーバーを促したり、身体を好調に導くほどの”理想的なレベル”には程遠く、その差が慢性的な欠乏となっているんです。タンパク質に関して言えば、理想は1日60gの摂取が必要ですが、現代人は約半分の30gぐらいしか摂取していないことが多いですね。しかし、実際に理想的なレベルを食事で摂取しようとすると、食事量が膨大になり、カロリーオーバーになります。そこで効果的に栄養素を摂取するという視点で考えれば、サプリが一番早いと思います。
恩田 でも、今やサプリもピンからキリまでさまざまな種類があります。極端な話、何百円から数万円まで価格帯もバラバラですが、どのように選べばいいのでしょうか。
斎藤 選ぶ基準は……難しいですね。ただ、なるべく栄養療法に従事している人が作ったモノを選ぶ、としか言えませんね。というのも、今は作る方も買う方も、「美白にはプラセンタ」や「うるおいにはコラーゲン」など個別に摂取するというのが主流となっているんですが、本当はそうじゃない。多くの商品は具材というべき栄養素しか入っていないのですが、僕の作るものには具材と料理人を一緒に入れているイメージです。要はせっかくの摂取した栄養素が、ちゃんと作用してもらわないと意味がないんです。
――コスメティックプランナーの恩田さんとしては、今の斎藤先生のお話を伺って、化粧品の限界、もしくは今後のビューティーの主軸が美容医療に移っていくと思われますか?
恩田 美容医療と言うより、予防医療の概念が化粧品にもっと浸透してくるだろうと思っています。健康あっての美ですから。そこのところを、今までの化粧品ではあまり重視してこなかった気がします。特にエイジングという視点で考えると、栄養学や漢方の知識など直接的に美に関係している情報ではなくても、健康であり続けるための知識として蓄積していくことが必要になってくると思います。そういった知識を得るために、本で学ぶのも良いでしょうが、斎藤先生のような美容面・医療面に精通している医師に相談し、自分自身の身体について見つめ直すのも大切なことだと思います。
■アンチエイジングにゴールはある?
――「アンチエイジング」がマスコミによって強迫観念のように叫ばれてから随分時間が経ちますが、実際に啓蒙しているマスコミ側も、実践している消費者側も誰も着地点が見えていないように思います。お二人のお立場から考えるアンチエイジングのゴールはどのあたりだと思ってらっしゃいますか?
斎藤 医学的な見地から言えば、30代前半の状態をキープするというところまでが可能な範囲ではないでしょうか。ホルモンバランスとしても、代謝レベルとしても、そのぐらいまでが限界ですね。
恩田 それは50歳の人でも、30代前半の状態になれるということですよね? それなら充分だと思います。今回、私が「IN&ON」に一つの意味を感じたのは、結果がでるまでにある程度の期間があるというところにあります。ボトックスやヒアルロン酸注射は、一瞬で効果が出るので、目的・理想と結果が近過ぎる。そうすると、「ほっぺたは注射でふっくらしたのに、まぶたが重く見られる。唇が薄く感じられる」と次々と手を出してしまうと思うんです。「IN&ON」のようにケアをしながら結果を待つという環境が、「頑張ったけど、こんな感じね」と自分を許したり、見つめる時間も作れると思うんです。
ボトックスやヒアルロン酸ならお面のような完璧な美しさが手に入れられるかもしれないですが、その状態も永遠ではありません。常にメンテナンスが付きまとう、制限付きの美です。本当に美しいのは「体温のある美しさ」つまり「自分を受け入れるゆとり」だと思います。そのための道具として化粧品を上手に使いこなしてほしいですね。
斎藤 僕の病院では、ボトックスもヒアルロン酸も施術しますが、患者さんの言いなりに打つのではなく、施術前のカウンセリングをとても大切にしています。「やり過ぎちゃう人」というのは、初めのカウンセリングを重要視してない場合に起きるものだと思います。正しく使えば問題ありませんが、ヒアルロン酸は打ち過ぎると肌の血行を損ねて老け肌になります。だから、はじめにカウンセリングで自分なりの「落とし所」を決めないと、本末転倒になりうるかもしれない。患者さんも「自分がやってほしいことをしてくれる医師」がいいのか、「自分を最善な状態に導いてくれる医師」がいいのか、じっくりと考えてもらえるといいですね。
斎藤糧三(さいとう・りょうぞう)
日本医科大学を卒業後、同大学産婦人科学教室で助手を勤める。その後、美容クリニックで美容皮膚科治療を修得、国内外のアンチエイジング学会や栄養療法のワークショップに参加。栄養学、ホルモン学、美容皮膚科を融合させた総合的なアンチエイジング医療、「トータルアンチエイジング」を提唱。分子整合栄養医学に基づいた栄養療法をベースに、美容皮膚科治療、レーザー治療、ホルモン療法によるアンチエイジング、デトックス療法による慢性疾患の治療、αリポ酸を中心とした点滴療法、キレーション療法を得意とする。現在は日本機能性医学研究所を設立し、機能性医学の啓蒙、アンチエイジングコンサルティング、機能性医学から見た社会労務改善、臨床研究に従事する。現在は医療法人社団アンサー理事長、アンサークリニック銀座院長。
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恩田雅世(おんだ・まさよ)
コスメティックプランナー。数社の化粧品メーカーで化粧品の企画・開発に携わり独立。現在、フリーランスとして「ベルサイユのばらコスメ」開発プロジェクトの他、様々な化粧品の企画プロデュースに携わっている。コスメと女性心理に関する記事も執筆している。
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