カルチャー
[連載] ドルショック竹下の「ヤリきれない話」

『WALL-E』を横目に●●する、という不道徳に燃えたのは一瞬だけだった……

2010/08/15 17:00
(C) ドルショック竹下

 夏といえば家族みんなで楽しめる、愛と涙の長編映画が欠かせません。が、見る状況を誤れば、せっかくの感動巨編もしょっぱい記憶を呼び覚ます装置にしかなり得ないのです――。

***

 時刻は早朝。私はえもいわれぬ高揚感に包まれながら、ある男性と熱い吐息を交わしていた。広いワンルーム、テレビとラグとベッドだけのシンプルなリビングスペースに「Francfranc」でオーダーしたという大胆なアラベスク模様のカーテン……多少、嫌味に思えるほどのスタイリッシュな空間で今まさにまぐわいが始まろうとしていた。

 男性は、長らく顔見知りだったクリエイター。サ○リオのキャラクター「たあ坊」を髣髴とさせる愛嬌ある容姿の彼とは、飲みの席で久々に再会した。同じ業界の人間とプライベートで同衾(どうきん)することに抵抗はあるものの、同業の気安さと、バツ1アラフォー男特有の可愛らしさに心をくすぐられた私は、酔い潰れたたあ坊を彼の自宅まで送り、そのままベッドへとなだれ込んだのであった。

 テレビの大画面には映画『WALL-E(ウォーリー)』のDVDが映し出されていた。未来の地球、一体のゴミ処理ロボットが活躍するファミリー向けの感動巨編である。ハードコアな作品ばかり見ている私だが、こればかりは「CM見ただけでちょっと泣いちゃう」くらいの期待を寄せていた。その作品を、これからセックスしようというタイミングで見ていることに若干の罪悪感を覚えつつ、それでもほとばしる性欲は抑えられない。

 ハグ、そしてキスの応酬。身体の芯まで熱くなったところで、まずは私からねっとりとご奉仕させていただく。控えめながらも十分に手ごたえを感じる反応……ふむふむ、肝心のモノも確かな満足を得られるサイズである。たあ坊の身体を隅々までねぶり倒したところで、彼が言った。「僕にも、させてください……」

 攻守交代。厚みのあるマットレスに背中を預け、彼の愛撫を受けるべくご開帳。お口のプレイをしただけですっかり潤ってしまった秘密のローズガーデンに顔をうずめるたあ坊。彼の舌が熱の帯となって私の太平洋を横断する……ああ、なんて東方見聞録なの……。そう思っている間にも、ウォーリーは一生懸命ゴミを片付けたり、イヴとかいう飛行物体と空中を舞ったりしている。なんという不道徳。

 だが、しばらくして私は何かがおかしいと気づいた。ク●ニである。彼の舌はひたすら、私のクリを舐め続けているだけなのだ。世間一般の大多数である「クリ派」女性にとってはそれでいいのかもしれないが、「ポルチオ(子宮口)」でオーガズムを得る私としては納得がいかない。つーかポイントがズレている。

 「あっ、クリはちょっと違う……んっ、もっと……下ッ!」喘ぎを織り交ぜながら控えめに自己主張する私。しかし彼は「ん~、クリで気持ちよくなったことないの? じゃあ僕がしてあげるね」と強気である。

 「クリも気持ちよくないことはないけど……それじゃイカないんだよッ!」叫んで蹴り飛ばしたい思いを飲み込みながら、腰を持ち上げて”正しき道”へ誘導してみたりとアレコレ工夫するが、相変わらず一定のリズムでクリを刺激し続けるたあ坊。ふと画面に目をやると、いつの間にか映画はクライマックス。宇宙船の艦長みたいな人が重大な決断を迫られている状況だった。

 こちらも事態は相当深刻だ。クリか穴かの判断を見誤っているたあ坊。気安い相手とはいえ、10歳近く年上の男性に「お前のク●ニ違う」と言っていいものかどうか……重大な決断を先延ばしにしているうちに、映画はエンドロールさえ終わり、再び頭から再生されていた。『WALL-E』二周目である。

 「この際、クリでイけるようになったらいいのではないか。『セックス体験漫画家として、クリ性感くらいはおさえておけ』という神の思し召しか……」

 発想の切り替えをはかりつつも、一方快感のどん詰まりからなんとか脱出しようと試みる私。ラマーズ法にも似た呼吸で高揚を逃がしてみたり、「挿れてー挿れてー」とダイレクトに懇願してみたり。だがそうするほどに「俺が教えてやる」的なドヤ顔でクリをなめ続けるたあ坊……。

 やっとクリ責めから解放され、リーサルウェポンが撃ち込まれたのは本日二度目のエンドロールが始まった頃であった。完全に「イき時」を失った私はポルチオでさえも絶頂に達することなく、たあ坊も深酒のせいで発射せず、なんとも消化不良な一戦と相成った。

 後になって、過去に彼と同棲していた女性から「彼に『SMAP×SMAP』が始まる前から終わるまでク●ニされた」というエピソードを聞かされた。一時間のテレビ番組程度のク●ニがなぜ、『WALL-E』二周にまで延長されるようになったのか――その真相はいまだに闇の中である。

ドルショック竹下(どるしょっく・たけした)
体験漫画家。『エロス番外地』(「漫画実話ナックルズ」/ミリオン出版)、『おとなり裁判ショー!!』(「ご近所スキャンダル」/竹書房)好評連載中。近著に「セックス・ダイエット」(ミリオン出版)。

『ウォーリー』

逆に、これが新しい鑑賞法かもしれないし。


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