サイゾーウーマンカルチャー漫画レビュー「すこし不思議」な世界での友情が味わい深い『第七女子会彷徨』 カルチャー [連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第12回 「すこし不思議」な世界での友情が味わい深い『第七女子会彷徨』 2010/08/13 19:30 まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」カルチャー 『第七女子会彷徨』1巻/徳間書店 ――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が”正しき女子まんが道”を指南します! <今回紹介する女子まんが> つばな『第七女子会彷徨』1~2巻 徳間書店/1巻590円・2巻620円 舞台は多分、近未来の日本。学校の「友達選定」システムによって「友達」とされた女子高生「金やん」と「高木さん」のシュールな日常を、まるで漫才のように描くのが『第七女子会彷徨』です。 例えば『聖☆おにいさん』(中村光著)においては、イエスとブッダというかなり特殊な”キャラクター”が、現代日本のごく標準的な郊外都市・立川市に暮らしていることで「おかしみ」が生み出されていきます。本作ではそれとは逆に、主人公は基本的にはフツーの女子高生。ボケ担当の高木さんはやや常軌を逸しているフシもありますが、金やんは非常に真っ当なツッコミ担当の優等生。ごく一般的なの女子高生が、「すこし不思議」な近未来に暮らすことによって「おかしみ」が生み出されます。 確かに2人を取り巻く近未来世界は「すこし不思議」なのです。前述の「友達選定」システムはもちろん、インターネットが死後の世界にまで拡大され、死者は記憶だけを取り出されて、ネット上の仮想世界で生き続けることができるようになりました。だからクラスメイトの坪井さんが死んでしまったときのリアクションも、おかげで日直が1日繰り上がってしまった戸川くんは「えーっ 坪井のやろう!!」とキレるばかりですし、CDを貸していた高木さんは「アレだけは返してもらわないと……」と、即座に天国へ「CD借りパクしてんじゃねー!!(`曲´)by高木」とメールする始末です。 これはもちろん、ネットなどのバーチャルな世界によって軽視されるようになった(と言われる)現代の死生観に対する風刺とも取れます。さらに言えば、「友達選定」システムは、今日のコミュニケーション不全を皮肉ったものとも考えられるでしょう。とは言え本作はそれらを何ら批判するものではありません。単純に「設定」として取り入れ、効果的に笑いへと繋げていくばかりです。現に登場人物はみな普通に過ごしているではありませんか。 基本的に本作は無意味なのです。第19話「静止現象」は、時間が止まった世界で高木さんがひたすらいたずらを繰り広げる話です。例えば登校中の金やんの頭にマグロの握り寿司を載せて携帯で写真を撮った後、高木さんは握り寿司を思いっきり叩き潰すのです。その行為のバカバカしさと、絶妙のコマ割の面白さたるや! 第2話「正体不明」は、「なんだか解らないもの」が日本列島を縦断して、なんだか解らないまま被害を広げていく話。終盤、1ページ裁ち落としの大ゴマを使って「なんだか解らないもの」が描かれるのですが、「作者はこれが描きたかっただけでは……」という疑問すら沸く不毛な展開ではあります(が、面白いのでOK!)。 本書のタイトルは尾崎翠『第七官界彷徨』からの本歌取りでありましょう。具体的にどこがどう…というわけではないのですが、通底するセンスは「女子的」としか言い様のない、刹那的だけど楽しい何か。大人の女子が乾いた笑い声を上げるのにぴったりのギャグまんがとなっています。と同時に、そこかしこに描かれる金やんと高木さんの友情模様に、ほっと心温まることでしょう。 それにしてもこの突き抜けたセンス。本作がデビュー作となるつばな先生ですが、まったくただものではありません。今年後半には賞レースを賑わす話題作となっているのではないでしょうか。今のうちに先物買いを、ぜひ。 小田真琴(おだ・まこと) 1977年生まれ。少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する32歳。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。 『第七女子会彷徨 1』 べたつかない友情こそ本物 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます】 ・『ハチクロ』よりも”敗者”にフォーカスした意欲作『3月のライオン』 ・“幸せウツ”に怯える女子に、新たな王子様像を示した『娚の一生』 ・『にこたま』卵子と性欲に振り回されながらも、男女が求め続ける「他者」 最終更新:2014/04/01 11:40 次の記事 妻くらたまの服装がヤバ過ぎる! ある意味変態の域に入ってきましたよ >