カルチャー
[連載] ドルショック竹下の「ヤリきれない話」

“心のコスプレ”を害され、高級ホテルでセックスマシーンと化した夜

2010/07/04 17:00
(C) ドルショック竹下

 割り切った関係、というのは一見安定しているようですが、実は非常に不安定かつ厳しい条件下で成り立っている砂上の楼閣なのではないでしょうか。

***

「銀座とか麻布のお姉ちゃんたちもいいけどさ~、たまにはこういうところにいる素人の女の子もいいかなと思ったわけよ」

 バブルは某有名石油会社の営業部長、42歳既婚。明るい茶色の短髪と日焼けした肌、椎名桔平似のキリッとしたマスクという、モテる中年の代表格のような容姿である。某週刊誌増刊の取材で、お見合いパブに入ったところ指名を受けて出会った、仕事に家庭に遊びにと、脂の乗り切ったサラリーマン。彼の口から繰り出される発言もそのプロフィールからブレることなく、

「金ならある」
「別れた女には必ず手切れ金を渡してる」

 などと景気のいいものばかり。祭りのふんどしやビッグマグナム、勢いのある射精など、「景気のいい」ものに目がない私は速攻で心を奪われた。歌舞伎町のハプニングバーへ向かった私たちは、あれよあれよとプレイルームになだれ込み、同行した友人・H子の眼前で激しい騎乗位セックスを展開したのだった。

 それから、私とバブルは定期的に会うようになった。夜7~9時に待ち合わせ、食事をしラブホでセックス。3時間の休憩の後、それぞれタクシーで帰宅。「味気ない」と言ってしまえばそれまでだが、私にはそれが心地よかった。彼と会う数時間だけ、極上の愛人を演じる。バブルもまた、最高にかっこよくて頼れる「パパ」になりきる。互いの生活に支障の出ない範囲で行われる「心のコスプレ」。タクシーに乗るときに手渡される5,000円~1万円が、プレイ代のようなものだった。私としては、それすらも余計に思われるほど愉しんでいたのだが……。

 ある日、バブルから「半休取ったから、たまには昼からデートしない?」とメールが届いた。フリーランスの私としては平日昼間の方がむしろありがたい。二つ返事でOKし、特別に気合の入った愛人風ワンピースで待ち合わせ場所へ。映画を観、ホルモンをつつき、友人を交えて酒を飲む……普通の恋人同士のようなデート。夜10時をまわったところでバブルは言った。「そろそろ、行こうか」

 当然「これからセックスをする」という合図である。ラブホでの3時間を濃密にするために、昼から甘酸っぱいデートを演出する、この「じらし作戦」。ベタではあるが大いにアリだ。私は「待て」を命じられた犬のように今か今かとセックスへの期待を高めていた――。ところが、先を歩くバブルが向かうのは、ラブホ街とは反対方向。新宿駅を越え、ビジネス街を抜け、たどり着いたのは「K王プラザホテル」。エレベータに乗り込み向かう先は40数階。え? え? まさかここからバーラウンジで一杯でもあるまいし……。

 「じゃーん!」満面の笑みで部屋のドアを開けるバブル。シックなトーンで統一された室内。窓からは都庁をはじめとするビル群の灯りがきらめいている。バブルは私のために部屋を用意してくれていたのだ。「わぁ、すごぉい……」と驚きの言葉を口にした私。だが内心は、寒々しい気持ちに満ちていた。

 私は、バブルと「生活に支障の出ない範囲で行われる心のコスプレ」を愉しんでいたのである。なのに、昼に待ち合わせて散々デートした挙句、朝まで一緒に拘束されるとはどういうことか。仕事の締め切りだってあるというのに!

 私のそんな憤りに気付くこともなく、バブルはニヤけながら「朝まで寝かさないよ」などと耳元で囁く。冗談じゃない。今夜寝なかったら明日の仕事にも支障が出る。

 突如として、私は怒りのセックスマシーンへと変貌した。睡眠時間を確保し、自らの生活ペースを乱さないために。「射精のタイミングはコントロール可能」とうそぶくバブルの16センチ砲にまたがり、激しいグラインドと「九浅一深」の上下運動を繰り返す。いつもは余裕綽々のバブルもこのときばかりは「あっ、駄目だよっ! ちょっ、待っ……」とあっけなく3回果てて眠りについた。

 翌朝、十分な睡眠をとった私が見たのは、朝日に映える都庁を悠々と眺めるバブルの姿だった。ゴルフで鍛えた上半身に光を受けながらドヤ顔で彼は言う。

「戦国武将がなんで天守閣を作るか知ってるかい?」

 瞬間、私は戦慄した。あまりのダサさに。まさかこの男、一介のサラリーマンであるにも関わらず、戦国武将と自分を重ね合わせちゃってるのではないだろうか? 弱肉強食の出版フリーランス業界をサバイブしてきたこの私を前にして? 大体この部屋だって、お前の持ち家じゃなくて一泊いくらで泊まってるだけだろ!

 「おめでてーな! この足軽が!」とツッコミを入れたい衝動を必死で抑え、笑顔でバイバイした私。直後に彼のアドレスを携帯から削除したことは、言うまでもない。

ドルショック竹下(どるしょっく・たけした)
体験漫画家。『エロス番外地』(「漫画実話ナックルズ」/ミリオン出版)、『おとなり裁判ショー!!』(「ご近所スキャンダル」/竹書房)好評連載中。近著に「セックス・ダイエット」(ミリオン出版)。

「HOTEL シーズン3 前編 DVD-BOX 」

バブル+ホテル=高嶋政伸、という黄金式♪


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最終更新:2010/07/04 17:00
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