重厚と思うからつまらない、『不毛地帯』はオヤジの性欲を描いた壮大なコント
フジテレビ開局50周年記念作品として鳴り物入りで始まった『不毛地帯』。高視聴率を叩き出した『白い巨塔』と同じ唐沢寿明主演、山崎豊子原作ということもあり、一身に期待を背負って始まったのが半年前。もはやあれは夢だったんじゃ……と思えるその後の世間の無反応ぶりと視聴率の低迷に、さぞ肩を落としたであろう不毛チームの顔は想像に難くない。低迷の原因は時代設定、テーマなど、「そもそもそれを言っちゃあ」なものを始め、いくつもあるだろうし、実際に途中で見切りをつけた脱落組も大勢いただろう。
でもこのドラマ、世界観をうっかりそのまま味わおうとするから脱落しがちなんであって、「ネタドラマ」だと思って接していれば、相当豪華で金のかかったコントとして一見の価値があったと言える。まずは、あの時代がかった重厚かつ無駄に劇的なナレーション。70年代の大映ドラマ風コントの導入には欠かせない味わいじゃないですか。毎週ご丁寧に入る明朝体テロップも”ソレ風”で気が利いていた。フィルムで撮ったような、絶妙に紗がかかった画面の色合いも、実にソレ風。往年の昼ドラをコント仕立てにしたら、まさにこんな色味。それこそ、こういう昼ドラを、フジテレビでよく見たよ。
最大の見せ場は、壱岐役の唐沢寿明と千里役の小雪の駆け引きだった。和久井映見演じる壱岐の妻が存命の頃から、何かと意味深に見つめあったりという、昭和30年代的禁欲男女感を醸し出してはいた。妻の死後には壱岐が、後に責任をとらなきゃいけなくなるようなヘマ発言は吐かず、スーパー都合のいいスタンスで距離を縮めて、アメリカの壱岐宅でついに結ばれる。その日を境に、イイ年をした壱岐のワガママは爆発!
帰国後の壱岐宅で、「今夜は千里タンとキメるぜ!」と思ったら、壱岐の娘(多部未華子)が「お母さんの遺影にごはんを添える!」と突撃してきて、せっかく久々に乳繰り合えると鼻息荒くしていた壱岐が気まずそうにションボリしちゃったり。ハードな仕事の合間、「今度こそ家で一戦交えるか!?」とテンションが上がったものの、陶芸家の千里が「釜が事故った」と戻らねばならないことを告げられると、これまで散々自分の都合で家庭も千里との約束も蹂躙してきた過去はなかったかのように、「そんなことで帰んのかっ!」と逆ギレ。その途端、「勝手な人!」と、千里のみならず全女性視聴者のヒンシュクを一心に買って、またも意気消沈。
おそらく番組的には「抱けた」のはおそらく1回。今日こそ抱く、いや抱けない、いや抱くったら抱く! 50代という壮年にかかった唐沢の逆ギレは、演技が達者なぶん、ベテラン芸人も真っ青の滑稽さ。しかも小雪のやたらガタイのいい肩幅は、いつだってそんな逆ギレ壮年オヤジの滑稽さを包むのにあり余る頼もしさだ。壱岐を抱きしめるときは、その肩幅と高身長をカモフラージュするかのように部屋の段差を利用して、当然小雪は一段下。 「壱岐さん今日も抱けなかったね」「今日は段差利用なのね」と、『不毛地帯』を見る楽しみは、こうして毎週膨らんでいったのだ。
まあ、最後に来て、ビジネスがうまくいった壱岐は、あんなに抱ける抱けないで情緒不安定になっていたクセに、「シベリアに行くから、今までのことはなかったことにしよう」と、これまた常軌を逸した一方的発言で日本を発ってしまったため、二人のコントにお目にかかることは出来なかったのだが。ちなみにこのとき、おそらく千里は40歳くらいにはなってるはず。散々振り回しておいて、昭和40年代の40女相手にその言い草はあんまりじゃねえ!? なあ、壱岐さん!
ちょっと熱くなってしまいましたが、最後にどうしても付け加えておきたい見どころをもうひとつ。それは、里井役の岸部一徳。仕事のデキる壱岐への嫉妬に狂い、壱岐がちょっとピンチに陥れば過剰にニヤつき、逆に自分の旗色が悪くなれば、社長(原田芳雄)でさえ手がつけられなくなるほど部屋をグチャグチャにひっくり返して逆ギレしたりと、駄々っ子暴走。その様は、言わば懐かしの困ったちゃんキャラ「冬彦さん」。
ストレスから心臓の病に倒れてもなお、壱岐の出世だけは阻もうとする執念で、医者に無茶言って退院し、大事な会合でぶっ倒れて壱岐に介抱されたりするダメっぷりは、小雪コント以上の滑稽さだった。その辺りはスタッフも了承済みなのか、「これだけは里井に知られちゃいけない」というシーンに限って、最高のアングルで、嫉妬の炎がマグマの温度で着火された一徳の能面ヅラが見切れるんだからもう…! そのたびに「今週も一徳のホラーシーン、キタ!」と喜んでしまいました。最終回はこちらのホラーもナリを潜め、社長の情けなさのほうが見せ場となったものの、いやはや毎週楽しめるドラマだった。
まるで打ち切りのような速さで、時間拡大もなく終わってしまったけど、最終回の役者魂のぶつかりあいは純粋にドラマとして楽しめる濃密さ。豪華な半年間をありがとう!
(ぽんた2号)
そんなコントを初回からどうぞ♪
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