深読みするほどキレイになれない……勝間和代の「キレイが勝ち」
勝間和代の『結局、女はキレイが勝ち。』(マガジンハウス)がネットで話題になった。あの勝間和代がキレイになるためのノウハウを伝授するという本だ。とはいえ、最初のページで「キレイ」の定義を「外見だけでなく、内面もキレイであることを指します」としており、タイトルから美容本を期待すると裏切られる(勝間に美容法を教えられても困るが)。むしろ読めば黄体ホルモンが左脳からわいてくるような、女性の美とはほど遠い、案の定といえば案の定な勝間本である。
その上「50平方メートルのスイートは1泊5万円、結婚して50平方メートルの家に住めば家賃12万円で、2晩半で元が取れてしまう」から「誰かとホテルに行くより結婚」といった、”ネタ”ではないかと思われる箇所も多い。ネタに関してつついても仕方がないので、そこはあえて触れないことにする。となると触れられるところはほとんどないのだが、かろうじて「これはもっともだ」と感じた一文があったのでご紹介したい。
20代後半で結婚可能なパートナーがいる人は、『他にいい人がいるかも』などと思わず、目の前の相手で手を打った方がいい
これは確かに当たってる気がする。何人かのアラフォー友人は”もっといい人”を探し続けて独身生活を続けている。最近、彼女たちは「この際、結婚しなくてもいいから子どもがほしい」と言い始めた。勝間によれば、女性は35歳を過ぎると可妊力が下がるので、「30歳前後で妊娠・出産というライフプランで結婚を考えていくほうがいい」という。人生、自分の思った通りにコトを運ぶためには、妥協も計算も必要だろう。
だが、ふと疑問に思う。”手を打った”相手と結婚して子どもを産んで思い通りになって、それで幸せなの?
よくよくタイトルを見る。「結局、女はキレイが勝ち。」と書いてある。そう、「勝ち」なのである。「モテる」でも「愛される」でも「幸せになれる」でもなく、そういうことも含めて、この本は”勝つ”ためのハウツー本なのである。
”勝つ”っていったいナニ? この本では「過去の自分に勝つという意味」だと書いてある。「過去の自分にサヨナラをしてキレイな自分になっていくと、とても幸せな暮らしや人生がやってくる」という。一方で「女性が幸せになる秘訣は専業主婦にならないこと」だとも書かれている。この本において幸せの定義ははっきりしている。子供がいて、仕事をバリバリしている女性である。なんだ、勝間じゃないか。自分で稼げれば勝間のようにバツ2シングルでも構わないもんな。
要はこの本は「キレイ」というのはレトリックで、「結局、女は勝間が勝ち。」という本だったのだ!
勝間本がこれほどまでもてはやされているのは、多くの人の中に「勝間=勝ち」という価値観が刷り込まれているからであろう。彼女の苦労話・成功話がどこまで本当かわからないが、現状では勝間でなければ負け、子どもがいなければ負け、仕事がなければ負け、金がなければ負け、努力しないやつは負け、成功しなければ負け、カツマーでなければ負け、バカバカしいと思ったら負け、勝ちたいと思わなければ負け、おまえは負け。そういうことである。
勝手に深読みして無駄な闘争心と敗北感を煽られて、「勝」という字を「豚」と見間違えつつ、いやーな気分になったところで年が暮れてゆく。来年こそは”成功するために”勝間カツ代センセイの提唱する「三毒追放(妬まない、怒らない、愚痴らない)」を心がけようと、心にもないことを誓う。
(亀井百合子)
亀井百合子(かめい・ゆりこ)
1973年、東京都の隣の県生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスライターに。ファッション誌やカルチャー誌のライター、アパレルブランドのコピーライターとして活動中。
概ね美人なんだけど、鼻がマイケルそっくりで好感。
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