苦い思い出が故!? 『ヴェロニカ・マーズ』がアメリカでウケる理由とは
アメリカの学校は、とても自由で解放的であり、日本のような陰湿な「いじめ」は起こりにくいというイメージがあるが、実は日本以上に深刻な「いじめ」問題を抱えている。
自分たちよりも弱いものを執拗にいじめる「いじめっこ」は、学校のレベルを問わずアメリカ全土に数多く存在し、米国立小児保健発達研究所の調べでは、全米で16%もの学生が今現在いじめられていると回答。調査に参加していない不登校生も年々増加の傾向にあるとされている。
いじめにより自殺する学生も増えており、bullycide(bully=いじめ、suiceide=自殺)という単語まであるほど。追い詰められた「いじめられっこ」が学校で銃を乱射する復讐事件も後を絶たない。
いじめっこたちの他にも、学区内を取り仕切る不良ギャング団に絡まれないように気をつけたり、異性やタバコ、お酒に麻薬の誘惑に打ち勝ち、本業である勉強にも打ち込まなければならず、多感な年頃になると、友人関係や家族との関係に悩んだり、進路や将来について漠然とした不安感を抱くようになる。アメリカの学生たちも、かなりのストレスを感じながら日々の生活を送っているのである。
このため、成人したアメリカ人の誰もが「学生時代の苦い思い出」を持っているとされている。後悔はしていないけれど「もっと違う学生生活がおくれたのでは?」と思っている人も多い。「悩み多き学生たちの日常を描いた学園ドラマはヒットしやすい」とアメリカではいわれているが、視聴者が学生時代に味わったマイナスな部分を、登場人物に投影できるからなのである。
そんな学園ものに、老若男女を問わず大好きな「ミステリー・サスペンス」要素を加え、一粒で二度美味しくしたドラマがある。2004年から2007年まで全米で放送されていた人気学園ミステリー・ドラマ『ヴェロニカ・マーズ』である。
■親友の死で、人生が一変した主人公
南カルフォルニアの海辺にあるネプチューンの高校に通うヴェロニカは、リッチな家庭に育つ学生たちの人気グループの一員として、恋愛を楽しみながら「おしゃれ」な学生生活をおくっていた。しかし、ある夜、ボーイフレンドの妹で無二の親友が殺害され、全てが一転する。多くを失ったヴェロニカは、親友の死の真相を暴くため、私立探偵として地味にひたむきに生きる道を選ぶ。
ジョニー・デップの出世作『21 Jump Street』も、数々の学校を舞台に覆面捜査官が活躍する、という似たようなコンセプトのドラマであったが、『ヴェロニカ・マーズ』を手がけるのは映画『ダイ・ハード』『マトリックス』の製作総指揮者ジョエル・シルヴァー。サスペンス・アクションの第一人者ともいえるプロデューサーにより、脚本がしっかりと練られており、完成度の高いサスペンス満載の飽きがこない作品に仕上がっており、放送開始と同時に大ヒットした。
主人公のヴェロニカは、親友の殺人事件がきっかけとなり、属していた人気グループからいじめのターゲットとして見られるようになる。そのいじめは陰湿なもので、精神的にも身体的にもボロボロになるもの。しかし、彼女はひるむことなく、真っ向からぶち当たっていく。
ヴェロニカを支えているものは、親友の死の真相を知ることと、人間にとって何が一番大事なのかという信念、そして父親との強くて深い絆である。主人公がいじめられるようになった原因の一つには父親が絡んでいるのだが、それを差し引いても、いじめられっこにとって、親がどれだけ大きな支えになるのかということを、ドラマは教えてくれる。
また、学校のダークサイドだけでなく、少年犯罪や不良ギャングの実態、大人の汚い部分などが盛り込まれ、作品はスリリングに仕上がっており、ヴェロニカを演じるクリステン・ベルの高い演技力も手伝ってドラマは高い人気をよんだ。日本でも9月16日にリリースされたシーズン2では、学生たちが家庭で抱える悩みも取り入れられ、ヒューマンドラマとしても楽しませてくれる。
現代の日本では、学校だけでなくネットや携帯サイトなどで色々なところで「いじめ」が行われている。いじめに打ち勝つことは決して容易なことではないが、ヴェロニカから何らかのヒントを得ることができるだろう。単なる学園ミステリーサスペンスドラマにとどまらない「深み」のある『ヴェロニカ・マーズ』は見るものに多くを与えてくれる名作ドラマなのである。
『ヴェロニカ・マーズ』〈セカンド・シーズン〉 コレクターズ・ボックス1
見ると、ハマっちゃうのよね~
【関連記事】 『Dr.HOUSE』に見る、イギリス人役者のハリウッドでの成功例
【関連記事】 エミー賞から見る、次のブレイク海外ドラマはコレだ!
【関連記事】 アメリカのヒスパニック社会が生み出した、『アグリー・ベティ』という動き