童心の徹子と超現実主義の武内アナ、”素材”を生かしたのは……
今回ツッコませていただくのは、劇団ひとりが出演した、9月15日放送分のNHK『スタジオパークからこんにちは』。
その名の通り、一人で何役もこなす、劇団ひとりの多彩なトークは、「ひとり」の世界で練り上げられ、完結しているものである。
まずは、7kg減量に成功した「左手ダイエット(左手で食べると、時間がかかって満腹になって痩せる)」の話を披露。
続いて、自身のエッセーでも綴られた「石原さん」の話(見返りのない愛を求めて、駐車場で拾った石に「石原さん」と名前を付け、愛そうとする話)が語られた。
いずれのトークも、別の番組で何度か聞いたことのあるものだったが、幾度となく語られているうちにムダが削ぎ落とされ、完成度の高い落語のようになっている。ただし、同じ話も、受け手によって大きく印象を変えるのが、トーク番組の恐ろしさだ。
実は「石原さん」の話は、以前、『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演した際にも同じトーンで語られていたのだが、徹子は「見せて見せて。こんにちは。ゲストと一緒に小石がおいで下さったのは初めてです。石原さんとおっしゃるのね」と無邪気に素直に大盛り上がり。
「石原さんをどれだけ愛しているか試すために、外で後ろ向きに投げてみた。何万個の石の中でも見つけられる自信があったから」という話にも、「それでそれで? 見つけたの?」と身を乗り出して聞いていた。ここでは、受け手・徹子の感受性が、「石原さん」に命を与えているようにすら思えたもの。
ところが、超現実的な武内陶子アナを前にすると、「石原さん」は、単なる石のまま。
画面上には「ネタ? ホント?」という文字が出続、陶子アナも「え~! ホントですか~!? どこまで本気で聞いていいのか」と苦笑い。結局、劇団ひとり自身、「7割ぐらいです」と返し、「ほとんどの話はネタばかり」という結論になってしまった。
さらに、続くは、会場のお客さんに悩みを語ってもらい、その悩みを歌で解決する「ギターセラピー」なるコーナー。
苦悶の表情で大げさに熱唱する、いかにも劇団ひとりらしいネタだったが、これもまた、陶子アナの手にかかると、おかしなことに。
高校1年生の男子「コウエンくん」の悩み「授業中に眠くなる」が語られると、陶子アナは「どう? 稲塚(稲塚貴一アナ)、イケるんじゃない?」とムチャぶり。
可哀想なのは、ネタを奪われた劇団ひとりと、急にムチャぶりされた稲塚アナである。
脂汗(冷や汗?)を流す稲塚アナと、それに合わせてギターを奏でる劇団ひとりは、オチを探りつつ苦悩した様子で、結局、「いいこと思いついた~♪ 学校へ行く前に~ちょっと公園(コウエンくん)で一休み~♪」と、あろうことかダジャレで締めていた。
「劇団ひとり」という、ただひとりの世界を、同じ舞台にのって同じ視点から見ようとした「徹子」と、それをあくまで素材として扱い、「集団劇」に変えた「陶子アナ」。
ともにお昼の番組を仕切る二人の危険な調理人が、同じ素材から作り出す全く異なるメニューに注目してみるのも、面白いかもしれません。
(田幸和歌子)
上には上がいるものです。
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