林真理子のエッセイは”勘違いダイエッター”のバイブルである
多くの女性の関心事といえば、ダイエットである。それにしても、林真理子先生のダイエット話にはウンザリだ。週刊文春の連載コラム「夜ふけのなわとび」では、何回かに1回は「0.8キロ痩せた」「2キロ太った」「ダイエットを始めた」という話題が入る。トレーナーについたり、断食道場に行ったりと、情熱とカネをかけてダイエットに励むのだが、はっきり言ってハヤシマリコが数キロ痩せたところで何も変わらない。
だいたいダイエット以前の問題として、食い過ぎなのである。大食いエピソードの1つに「わんこ鮨コハダ勝負」がある。先生はコハダが大好物で、食べ出すと止まらないそうだ。なじみの鮨屋ではコハダばかり25カンも食べるという。25カン。食い過ぎだよ。
先生はこう続ける。
「コハダ二十五カンももう遠い日の出来ごと。この何年か私は、ダイエットのため炭水化物を極力食べないようにしている。なじみのお鮨屋などとうになくなってしまった」
はぁ~またダイエット話かよ、と思いきや、
「それなのに今、私はお鮨を頬ばっているのである」(文春の連載をまとめた書籍『なわとび千夜一夜』より)
ダイエット中にどういう流れでそういう展開になるのでしょうか。こんなんばっか。もう食うな。
オヤジ向け文春のコラムでこんなんだから、ananの名物連載「美女入門」ではさぞかしすごいことになっているんだろう、と思って「美女入門」シリーズを読んでみた。内容を大雑把に解説すると、
・服買った
・いい男とデートした(ハヤシマリコ語の「デート」は「ワリカンで食事」のこと)
・太った
・ダイエットした
・太った
・食べた
・痩せない
・太った
・太った
・太った
といった感じだ。本当だ。女性向けコラムのため、文春よりもダイエット比率が高い。
曰く「ダイエットは一生のテーマ」だそうで、風邪を治すためにご飯を2杯食べて太ったり、温泉に2泊して2キロ太ったり、”フグのメリーゴーランド喰い” (=箸を回して45度分くらいのフグ刺しをつかんで食べる)をからかわれたり、フランス旅行で3日後にジーンズのジッパーが上がらなくなったり、指輪が入 らなくなったり、「痩せると天海祐希に似てる」とトレーナーに励まされたり、「あと5キロ痩せたら”やれる”」と親しい男性に言われて激怒した り……といった話が続く。
食べ物の話があまりに意地汚すぎる上、服が着られなくなるスピードが早いので、ほとんどネタなんじゃないかと思いたいのだが、一つ「冗談めかしつつ、これは本気なんだろうな」と疑われる点があった。それは黒木瞳のことだ。
――それにしても、黒木瞳さんと私は縁があるのネ、とつくづく思う。他の人から見ると、全然共通点がないように思われるであろうが、実はいろいろある。が、それを私が言うと人から殴られそうなので黙っているが、私はずうっと黒木さんのことを意識していたのである。(『美女入門』)
回りくどい。案外、本気で「痩せたら黒木瞳になれる」と思ってんじゃないだろうか。ちょっと体重が落ちるとすぐ「『痩せてキレイになった』と言われた」と いう文章が頻発するあたり、黒木瞳を仮想敵、あるいは仮想ソウルメイトと見なしている感がある。見識ある大作家先生でありながら、他人のことはよく見えて も、自分のことはこうまで見えなくなっちゃうもんなのかしら……。
なんてことを考えながら読み、ふと我が身を振り返った。ああ、そうか。なんだか自分が恥ずかしくなった。
自分のことを”ちょいポチャの宮崎あおい”と思い込むのはやめよう。痩せたらキレイなるという幻想を抱くのもやめよう。それから、もう無駄に食うのはやめよう。
いろいろ身につまされた。さすが、先生は私たちを啓蒙するために書いていらっしゃるのね! 他人のダイエットを笑いつつ、自分の中のハヤシマリコが見えてくる。ダイエッターにおすすめのエッセイです。
アラフォーの女性のキモチがわかります。イタイほど。
亀井百合子(かめい・ゆりこ)
1973年、東京都の隣の県生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスライターに。ファッション誌やカルチャー誌のライター、アパレルブランドのコピーライターとして活動中。