[連載]悪女の履歴書

三角関係で同僚女性を殺害――冤罪疑惑の「恵庭OL殺人事件」、警察情報の嘘と矛盾

2014/05/31 19:00
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Photo by ccm224 from Flickr

世間を戦慄させた殺人事件の犯人は女だった――。日々を平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。彼女たちを人を殺めるに駆り立てたものは何か。自己愛、嫉妬、劣等感――女の心を呪縛する闇をあぶり出す。

[第22回]
恵庭OL殺人事件

あまりに不可解、そして不幸が重なり合った事件。それが2000年に北海道で起こった「恵庭OL殺人事件」だ。

 2000年3月17日朝、北海道恵庭市の農道で女性の焼死体が発見された。遺体は全身炭化状態で、タオルのような布で目隠しされ、後ろ手に縛られ、足は開脚状態。死因は首を絞められたための窒息死とされ、死後、火をつけられたものだった。被害者は千歳市の通運会社に務める坂本香さん(仮名、当時24歳)。

 事件直後、さまざまな状況から、疑いの目は被害者が勤める通運会社の内部に向けられていく。そして事件翌日18日早々、ある女性容疑者が急浮上する。それが当時29歳だった被害者の同僚だった女性・大迫美恵子(仮名)だった。大迫は1998年に通運会社にアルバイトとして入社し、その10カ月後、坂本さんもまたアルバイトとして入社、翌年には2人揃って契約社員となったという同僚だ。


 実際に大迫が疑われた理由はいくつも存在した。その1つが大迫と坂本の間にあった、同僚男性を巡る恋愛トラブルだ。大迫は事件の1年半ほど前から同僚の男性と交際を続けていたが、その関係がギクシャクしていた。そんな折、この男性が事件前に坂本さんに交際を申し込んでいたため、三角関係の怨恨という動機があったからだ。そのほかにも数々の疑惑が浮上していく。

・事件直前まで大迫は被害者の携帯に220回ものいやがらせ電話をしていた。
・大迫は被害者の姿を最後に見た人物である。
・会社の女子更衣室ロッカーから被害者の携帯電話が見つかった。
・被害者のロッカーキーが大迫の車から発見された。
・アリバイが不明。
・被害者の携帯電話の移動経路が大迫のそれとほぼ一致する。
・大迫の車タイヤに高温で焼けた削り傷があった。
・大迫の車から灯油が検出された。

 警察が掴んだ多くの情報は大迫が犯人だと指し示すものだった。こうした情報はすぐさまマスコミにリークされていく。若い女性を絞殺し、死後遺体を焼くという残忍な手口。その容疑者が三角関係にあった20代の同僚女性というセンセーショナル性。そのためワイドショーをはじめ多くのマスコミが大迫を追い、これを大々的に報じ、異様な加熱ぶりを見せた。

 そうした報道が続く2カ月後の5月23日、大迫はついに逮捕される。痴情のもつれの末の逆恨み――。こうして事件は警察の予定通り、大迫逮捕で終着を迎えたかに見えた。

『恵庭OL殺人事件: こうして「犯人」は作られた』