[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

すべての元凶にされ、機嫌の悪さを増幅させてしまう、ブスの損な役回り

2012/01/01 21:00
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(C)安彦麻理絵

 まったく、もう。なんかツイてねぇな、とか思うともう、転がる石のごとく、そういう流れに飲まれてしまうというか……。そういうことってあるもんである。

 月曜日の昼、私は新宿にいた。区役所の保育課に、保育園入園希望の書類を出しに行ったのだ。それは別にどうでもいいんだが、その後、腹が減った私は靖国通り沿いの某タイ料理屋に入った。軽く二日酔いだった胃袋が、どうやらタイの味を求めていたのだ。で、食べたはいいが、それがどうもあまりうまくないというか、「私の好きな味」ではなかった。しかし、なんだかどうも「イクにイケなかった」的な、欲求不満感が残った。「タイ料理で体の隅々まで堕落したい!」と思ってたのに、何か納得がいかない。そんな気持ちを抱えてたので、その夜はそのまま「何か堕落メシを食ってリベンジしたい!」と思い、コンビニでカレーヌードルといなり寿司を購入。で、食ってはみたのだが、なぜだかあまり期待したほど感動がない。なんだか男に「ゴメン、今日、勃たなくって」と、謝られたような気分に陥った。

 そんなわけで火曜日、昼。「今日こそは完璧に堕落したい!」と思って、早稲田通り沿いのラーメン屋に行ってみた。結構客が入ってる店だったので、うまいんじゃないかと思ったのだ。が、それは私の苦手な太麺だった。そしてなんだかどうもスープが甘い。メンマもやたらと甘い味付け。チャーシューも甘い。とにかく全体が甘い。私は「甘めの味付け」が、どうも苦手なのである。どういうわけだか、昨日から胃袋にドンピシャにくるものに巡りあえない。どうにもこうにも納得がいかなくて、そのままセブンイレブンへ直行。大好きな「アンコとホイップクリームのアンパン、あれを食ってやれ!」と思ったのだ。そうすれば、自分の胃袋は納得いくのではと思ったのだが。……狙っていたアンパンは売り切れていた。仕方なく「カフェオレメロンパン」という、どこが一体メロンパンなんだか分からないパンを購入。帰宅後にコーヒーと一緒にかぶりついたのだが、やはり納得がいかない。私の胃袋は「アンコとホイップクリームがやってくるのを待ち受けていた」のだから、納得いかないのも当然である。

 てなわけで、水曜日。「自分で作ったものなら納得いくのでは?」と思い、朝、雑炊を作った。が、しょっぱすぎた……。一体いつまで続くのか、このスパイラル。「なんだか納得いかない、欲求不満感」を抱えた胃袋のまま、今朝の私は風邪が悪化していた。ほっときゃ治るだろう、と思ってたのに、鼻水、咳はますますひどくなっていたのだ。そして、なんだかもう、とにかく機嫌が悪い。最悪である。

 とりあえず、年末で医者が休みになる前に何とかしたほうがいいと思い、病院へ駆け込んだ。「待たされるだろうな」という覚悟の元。案の定、1時間近く待たされる。ようやく診察をしてもらい、処方箋を出してもらって調剤薬局に向かった。客がジイさん一人だったので「これなら早く薬を出してもらえるだろう」と思って選んだその薬局では、なぜだか知らないが30分以上も待たされた。「一体何にそんな手間取ってんだよ!」怒鳴り散らして、店の中で暴れたくなったが、ぐっと我慢……が。まったく間の悪いことに、その薬局の受付の女が「ブス」であった。

 ドッシリとした体格に、髪の毛を二つに結んで、絶対に気が利かなそうな雰囲気を醸し出している。そんなふうだから、いくらぐっと我慢してもその女を見てると我慢が爆発しそうになるのである。これが「普通の女、もしくはキレイな女」だったらどうだったろうか? そこまでイライラしなかったかもしれない。なにしろ、何がいけないって、その女は、もしもこっちが「なんでこんな遅いんだよ!」とキレたとしても「……何さ、なんか文句でもあんの!?」と、凄味を効かせて睨み返しそうな、そんなブスだったのである……完全に……なんだか私の敗北であった。しかし、やっぱりイライラする。ここまでくると、なんだかもう、ここ数日のツイてない元凶は、全てこの女のせいみたいな気がしてきた。


 しかしそう考えると、ブスってもんは損な役回りである。こんなドス黒い顔をした中年女に八つ当たりされなければならないなんて迷惑な話である。とはいえまぁ、その女が「気が弱そうなブス」じゃなくてよかった。どう見てもそいつは、私の八つ当たりなんて屁とも思わなそうなブスだった。だからそのお陰で、ちょっとだけおもしろい気分になれたんだから(イライラしつつも「いいブスに出会えた」という満足感)。

 帰宅後、パルシステムで頼んでいた「信州産赤ワイン」が届いた。なんだか楽しい気分になってきた。

最終更新:2019/05/21 16:30